ホンヤドカリ飼育マニュアル!
ホンヤドカリは水棲のヤドカリで、オカヤドカリのような陸棲のヤドカリとは全く性質が異なる。
ネット上では陸棲のヤドカリと水棲のヤドカリを混同した記事が散見されるので注意してほしい。
目次
ホンヤドカリの基本データ
【種名】
【学名】
Pagurus filholi
【英名】
Hermit crab?
【分類】
【大きさ】
3cm程度(貝殻基準)
【生息地】
日本近海、朝鮮半島南部、台湾
【寿命】
3~4年
始めに〜飼育の基礎知識
※当記事はホンヤドカリをメインに飼育する人向けです。ホンヤドカリを中心に混泳などを書いています。
ホンヤドカリは日本近海の岩礁地帯にならほぼ必ず見られるヤドカリで、私が飼育している限りでは飼育難易度が低く、海洋生物飼育の入門としてもオススメの生物である。
しかし、かと言って杜撰な管理をしてもホンヤドカリを楽しみながら飼育することはできない。
ここでは、気を付けるべき点をいくつか述べようと思う。
最低限必要なもの
- 水槽本体(幅30センチ以上)
- ろ過装置
- 底砂
- ヒーター※
- エアレーション(酸素を送るブクブク)※
- 隠れ家
- 引っ越し用の貝殻
※ヒーターは室温と相談(後述)
※エアレーションはフィルターが底面または上部の場合は必須ではない
陸地は不要
陸地はいらない。
確かにホンヤドカリは岩が露出した浅瀬(潮だまり)などに生息はしているが、基本的に陸に上がったりはしないので必要なし。
水質の悪化や水温の安定を考えると、水量を減らしてまで陸地を作るメリットはない。
底砂
市販のサンゴ砂と書かれたものを買えば基本的に見た目が自分の好きなものでOK。
粒の細かさは使用するフィルターとも相談。
特に底面フィルターを考えている方は、砂が細かすぎると詰まるので粗めのものにしてね。
ちなみに私はC.P.Farmというところの、アラゴナイトサンドっていうのを使用している。
何だか調べるとサンゴ水槽向けとか出てくるけど、単に色や貝殻の破片の混じり方などが自分好みだったので使ってるだけ。
海水は人工海水の素がオススメ
基本的に海水は人工海水の素を買ってきて自分で作る方法がオススメ。
ただ、海水は海が近いのであれば直接新鮮な海水を汲んでくるっていうのはあり。
汲んできた場合は変なものが混入していないかなど、よく見てね。
人工海水の素は市販のものであれば何でもOKで、無理に高価なものを買う必要なし。
ちなみに自分はテトラの「マリンソルトプロ」っていう素を使っている。
人工海水はまとめ買いしておくと良い。
自分は↓ように人工海水の素を100均で買った密閉ができるびんに詰めてストックしている。
空の貝殻を入れてあげて
ホンヤドカリは常に貝殻をめぐって争うので多めに大小様々の貝殻を飼育水槽に入れておいてほしい。
飼育しているヤドカリたちの大きさを見ながら、貝殻を入れてほしい。
理想の数はヤドカリの数の2倍以上。
あと、ヤドカリは脱皮して大きくなるので、色々な形と大きさのものを入れてあげると完璧!
ヤドカリは新しい貝殻を入れると集まってきて必ずチェックするよ。それくらい常に理想の宿を探してるってこと!
ヤドカリの貝殻は、ヤドカリ専門の通販サイトで購入した。
海に行っても適当なのがなかなか集まらなかったからね。
良いサイトだったので、貼っておきます。
水温とヒーターについて
ホンヤドカリは磯で生活していることもあって、高温、特に低温には強い方だ。
だからヒーターは必須アイテムではない。
しかし、それでも一日の中で気温があまりにも大きく変動するような環境や、極端な温度になる環境は避けるべきであろう。
注意してほしいのは夏場の高温と冬だ。
夏場は室温が30℃を超えないような涼しい部屋に置くか、水温が30℃を超える場合はクーラーで室温を下げよう。
一方冬はリビングのような、人が通常の生活に頻繁に使用し、暖房をつけたり消したりする場所に水槽を置く人は注意が必要だ。
暖房をつける前とつけた後での寒暖差がかなり激しい場合、特に小型の水槽で飼育している場合は水温の変化が大きくなるからだ。
もし暖房をあまりつけないような、冬の間はずっと寒い部屋に水槽を置いている場合は、水が凍るようなことが起こらない限りヒーターなしでも大丈夫。
冬に磯に行くと、海水は冷たすぎて長時間手を入れられないくらいだが、野生のヤドカリたちは普通に生きているので、彼らは低水温には強い。
重要なのは、急激な水温の変化を避けること!
もう1つ、水温が下がるとヤドカリの活性が落ち、餌をあまり食べなくなるので、冬の間はヒーターなしで低温飼育する人は餌の量をしっかり調整してね。
私はリビングに水槽を置いてあり、人がいるかによって暖房で室温がかなり変化するので、そうした変化を緩和するという意味でヒーターを導入している。
ちなみに私はヒーター設定温度は21度にしています。
あと宣伝ではないですが、ヒーターはエヴァリスというメーカーがオススメ。
温度を可変的に設定でき、しかもヒーター本体を縦置き、横置きどちらもできるので重宝している。
私はヤドカリ以外にも熱帯魚など様々な生き物を飼育していますが、ヒーターは全てエヴァリスのものを使っているくらい。
※ヒーターを買う際は水槽のサイズに合ったW数があるので、注意して買ってください。
海藻は入れても入れなくてもどっちでもOK
↓ワカメを食べる我が家のホンヤドカリ
海藻は入れても入れなくてもどっちでもOK!
もし入れるのであれば、餌目的で割り切って入れよう。
ちなみに淡水の植物と違って、海の植物は育てにくいものが多い。
また、ホンヤドカリは雑食性で海藻もよく食べるので、レイアウト目的で海藻を入れるのはあまりオススメしない。
※食べられなくても、引っこ抜かれたりちぎられたり、レイアウト壊されます笑
入れる海藻は、緑色のものでも赤色のものでも、基本的に何でも食べる。
ただ、観察しているとワカメやコンブみたいなのっぺりしたものが好きみたい。
あと、入れる海藻はスーパーの鮮魚コーナーで買ってもいいし、海で漂着したものをとってくるのもアリ。
ただ、野生の海藻には高確率でよく分からない生き物が着いていたりするので注意してほしい。
フナムシみたいなやつとか、極小の貝類みたいなやつとかが苦手な方はスーパーで買うのが安心だと思う。
例えば↓はおそらくマクサという海藻。
飼育当初から入れているが、このタイプの海藻はあまり食べない。
水槽について
ホンヤドカリだけを飼育するのであれば、30センチ水槽に3~4匹は飼えてしまう。
45センチだと6~7匹は飼えるかな。
そんな私のオススメは60センチ水槽。
理由は
- 単純に水量が多くなって水温の変化などが穏やかになる。
- 大きい水槽であるほど沢山のヤドカリを飼育できる。
- ろ過装置などの機材が充実している。
- 磯には面白い生物が沢山いるので、他生物との混泳水槽が作れる。
である。
ろ過の話
ろ過の話はホンヤドカリに限らず海水魚全般に言える話かもしれない。
オススメはメンテナンスが楽な上部ろ過や底面ろ過だ。
外部ろ過でも問題はないのだが、その場合エアレーションをするか、水面をうまく揺らして水中に酸素を溶け込めるようにしてほしい。
ただ、エアレーションの際に注意してほしいのが塩ダレだ。
海水が飛び散ると水は蒸発して塩だけが結晶のように付着してそのまま残る。
特に上部ろ過装置は塩の結晶だらけになる。
長期間放置さえしなければすぐにとれるので、水換えのときは水を換えることばかりではなく、水槽の周りやろ過装置の周りをよく見て掃除しよう。
あと蓋もなくエアレーションなどで水をはねさせると大変なことになるので水槽の蓋は必須。
餌について
ホンヤドカリは人口餌から生き餌、海藻、クリル、死骸など本当に何でも食べる。
私は人口餌を基本に、数日おきに市販の冷凍のシーフードミックス(特にアサリが食いつき◎)を解凍して与えている。
あとは、定期的に海に行って漂着した海藻類をあげている。
色々食べるから、バランスよくあげたいね。
ちなみに人口餌はキョーリンのザリガニの餌をあげている。
ザリガニじゃん!って思った人はよくパッケージを見てほしい。
混泳について
まず、ヤドカリは他の甲殻類同様脱皮する生物であることを忘れてはならない。
よって脱皮直後のヤドカリはデリケートなので気を付けたい。
もう1つ、ホンヤドカリはヤドカリ類の中でもかなり大人しいが、怪力であることも忘れてはならない。
力の強さは体の大きさに比例してかなり大きくなり、Lサイズのケアシホンヤドカリなんかはかなり力が強い。
これらのことから、他の個体を襲う可能性は決してゼロではないし、襲うだけの力は備わっていることを覚えておこう。
ホンヤドカリ同士
ホンヤドカリ同士で致命的な問題が起こることはあまりないと思う。
確かに脱皮中は危険を伴うが、ザリガニなどと比べると、全然大人しい。
問題が起きるとすれば、餌を食いっぱぐれて飢餓状態の個体が脱皮中の個体を襲うとか、水槽に十分な貝殻を入れていなくて、宿の奪い合いに負けてしまうことだ。
ホンヤドカリは小食なほうではあるが、給餌はしっかりやってほしいし、上記で書いたように空の貝殻を常に多めに水槽にストックしておいてほしい。
他魚との相性
魚との混泳でもっとも問題になるのは餌問題だ。
明らかにホンヤドカリのほうが餌をとるのが遅いためである。
ご参考までに、私はアゴハゼという5センチ程度のハゼと混泳させているが、問題は起こっていない。
ただ、ホンヤドカリは餌をとるのが遅いうえ、度々食いっぱぐれてしまうことがあるので、注視しながら餌やりをしてほしい。
飢えたヤドカリは弱った個体や脱皮個体を襲うので。
カニとの相性
ヤドカリとカニの混泳はグレーで、私の経験上あまりオススメできない。
カニは意外に器用でしかも怪力であり、ヤドカリの殻の中にハサミを突っ込んで食べてしまうことがある。
この写真はイソガニっぽい個体。
磯にいるカニにも色々種類があって、よく見られるのがイシガニとイソガニだ。
イシガニは少々凶暴で、イソガニは大人しい・・・らしい。
イシガニは肉食傾向が強く、イソガニは雑食である。
両方飼育した私にとっては、大きくなるとイソガニもイシガニも関係ないように感じたが笑
経験上、2日も餌を抜けばヤドカリを襲い始める。
その他生物との相性
私はイトマキヒトデとイボニシくらいしか混泳させたことがないが、イボニシは無問題だった。
ちょっと問題になるのがイトマキヒトデだ。
イトマキヒトデは肉食傾向がかなり強めの雑食性であり、ホンヤドカリも捕食対象に入る。
ヒトデもヤドカリも鈍足であるが、空腹のイトマキヒトデがヤドカリに追いついてしまった場合、ヤドカリは捕食されてしまう。
今のところケアシホンヤドカリのLサイズ個体は捕食された経験はないが、ホンヤドカリのサイズであれば捕食される可能性は十分にある。
頻繁にヤドカリを捕食するわけではないが、イトマキヒトデと混泳させる場合はヒトデへの給餌をしっかりおこない、捕食の危険は常にあるということを忘れないようにしよう。
あと余談だが、生き餌を与えるとヒトデがヤドカリから餌を奪いにくるので、ヒトデを混泳させている場合は、ヒトデには直接個別に餌を与えてやると良い。
ヒトデもヤドカリもアサリなどの貝類が大好きだから取り合いになるよ!
どのヤドカリを飼う?
ヤドカリは、熱帯に棲むものでなければ、基本的に自然採集になるはず。
ここでは、採集にてよく採れるいくつかのホンヤドカリの仲間を紹介する。
基本的な飼育方法は、設備は上記で紹介したやり方やモノを使って立ち上げた水槽でいいし、ホンヤドカリと同じで良い。
ケアシホンヤドカリ
まず特徴は赤い触角と脚に毛が生えていること、そして体の斑点が黒いこと。
この3つの特徴を満たしていればまず間違いなくケアシホンヤドカリである。
また、生息場所に関してもホンヤドカリより限定的である。
本種は海と隔離された完全な潮溜りではなく、ある程度海水の出入りする溜まり場という少々限られた場所で見られる。
さらに、大きい個体を狙う場合はある程度水深がある(膝くらい)場所を探すと良い。
あと、最大サイズがホンヤドカリよりもデカい。
磯採集で明らかに巨大なホンヤドカリが採れたらまずコイツと思って良い。
性格はかなり大人しい。
多分普通のホンヤドカリより大人しいかもしれない。
サイズがホンヤドカリよりも大きくなり、毛まで生えて強そうに見えるんだけどね。
そしてケアシホンヤドカリは普通のホンヤドカリよりも少しだけ注意して飼育しなければならない。
私が実際に飼育して感じたのは
- 性格がかなり大人しい
- 人口餌をなかなか食べてくれない個体が多い(特に大きい個体に多い)
- そもそも餌に対する反応がホンヤドカリよりも遅め
- あまり動かず、活発ではない
以上の点から、ホンヤドカリよりも水槽に慣れるまでに結構時間がかかる。
ただ餌に関しては、人口餌に餌付きにくくても生き餌なら食べてくれる。
生き餌で慣らしてついでに人口餌も混ぜてあげていく~的なことをしていればだいたいの個体は人口餌も食べるようになる。
生き餌は嗜好性が高く、混泳している場合他の生物もがっついてきて奪い合いになるので個別に餌をやるのもアリ。
ユビナガホンヤドカリ
見た目はホンヤドカリと似ているが、その名の通り脚がホンヤドカリに比べて長いのが特徴。
採集していて「何だかこのヤドカリ、クモみたい」とか、「何か明らかに脚長くね?」っていう感じのヤドカリが採れたらこいつを疑ってみてほしい。
ユビナガホンヤドカリは生息場所もホンヤドカリとちょっと違う。
ホンヤドカリは潮溜り(磯)にいることが多いのに対し、ユビナガホンヤドカリは砂浜の近くの砂地帯で見られる。
河口付近でも採れることがあり、そのため塩分濃度の変化に強いとのこと。
飼育法は普通のホンヤドカリと混泳させて大丈夫だし、ホンヤドカリ感覚で飼育してOK。
特に人口餌を食べないとか、あまり動かないということもない。
ホシゾラホンヤドリ
何だかロマンチックな名前のヤドカリ。
見た目がケアシホンヤドカリに酷似しており、生息域もぶっている。
ケアシとの違いは体の斑点が本種では白っぽい色をしていること。
よく見ないとケアシホンヤドカリとの区別がつかないため、ケアシホンヤドカリらしきヤドカリを捕まえたら体の斑点の色を見てみよう。
ケアシであれば体の斑点は黒、ホシゾラであれば白である。
脚力が強く、巨体にしてはかなり素早く動くことができる。
採集のときにやたら素早かったらこいつかもしれない。
コラム:ヨモギホンヤドカリ
赤い触角、脚に毛が生えているなど、ケアシホンヤドカリに良く似たヤドカリ。
ケアシとの違いは、上写真のように脚先の爪の手前に、黒いバンド(縞模様)があること。
他のホンヤドカリと比べてヨモギホンヤドカリはかなり特異的であり、その理由は生態にある。
本種は夏眠といって夏に眠り、冬に活動するという習性をもつ。
こうした特異性から、まだ色々と謎が多いヤドカリで、効率的に採集するなら冬の磯に向かわなければならない。
よって飼育のノウハウなどはよく分かっていない。
私はとりあえず飼ってみようと思い水槽に1匹だけ飼育したが、いなくなってしまった。
夏眠をとるという特性上、長期飼育は工夫しないと難しいと感じた。
おそらく夏眠を想定して陸地を作る(夏眠は水に浸かるかどうかぐらいの場所でとるらしい)か、夏眠をさせないよう低温飼育するしかないと思われるが、仮に夏眠させないにしても、それが生育に影響を及ぼすのかは不明。
終わりに
ホンヤドカリは観察していると本当に面白い生き物だ。
私が飼育している生き物の中で、最も飽きずにずっと見ていられる。
今回は、甲殻類で個人的に最も好きなホンヤドカリについて執筆した。
この記事を書いた理由は、実はホンヤドカリの魅力を伝えたいというよりも、ネットであまりにお粗末な飼育法が散見されれいたことに耐えられなかったからだ。
自分の飼育経験から書けることを書けるだけ書くことを当ブログでは大切にしている。
今後気付いたときには積極的に加筆(リライト)をしていくし、この記事も少しずつボリューミーになっていくだろう。
常にアンテナを張って最新かつ正しい情報を入手することに努めるとともに、飼育しているヤドカリたちの観察と管理も怠らないようにしたい。