『生物学的文明論』を読んで
本川達雄氏の生物学的文明論を読破した。
本川氏は『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学』という著書も書かれていて、それが非常に面白かったので、本作も購入した。
目次
サンゴ礁と生態系
本書の前半では、サンゴ礁について語られる。
サンゴ礁と言えば環境問題。
本書はまず、サンゴ礁と、それを取り巻く生態系の話から始まる。
サンゴと褐虫藻というたった2種の生物の共生が、多様な生態系を作り出す。
そのような長い時間をかけて起こされた奇跡を、人間活動が猛スピードで破壊する。
人間は気づきにくい。
生態系が人間に与えているプライスレスなサービスの数々を、そして自分達も生態系の一部だということを。
生物の形と意味
サンゴ礁の次に、生物の体について考える。
本書では、生物はみな共通のある形をしており、そしてその形であることにはきちんとした意味があるという。
それは生物は皆体が円柱形をしていることだ。
木の幹はもちろん、植物の根、私たちの手足、胴体、血管、魚だってよく見れば円柱形である。
円柱形はとても強い形だ。
角ばっているものと違い、どの方向から力を受けても強い。
私たち人間の形を作っているのが骨格である。
骨格が円柱形をしているからこそ、水の中に入って波にもまれても、風に打たれても、そう簡単に体は変形しない。
しかし、生き物体は円柱形と言っても、部分的に平べったいところがある。
平べったい形は表面積をかせぐのに適した形だ。
魚の胸鰭を見てほしい。
あれは平べったくすることでより多くの水を押し、泳ぐためのものだ。
トンボの羽を見てほしい。
これも飛ぶために大量の空気を押すために平べったいのだ。
団扇や扇子が平べったいのと同じだ。
ゾウの耳やウサギの耳も長くて平べったい。
暑くなると表面積が広い耳から熱を放出しているのだ。
生物は丸く、人工物は四角い
生物は円柱形をしているのだから、どちらかというと丸である。
私たち人間も円柱形の組み合わせである。
やはり生物は丸いのだ。
しかし周りをの物体を見てみよう。
スマートホン、家、ビル群などの建物、テーブルなど。
私たちの身の周りには全てでないにしろ、角ばったものが多いと思わないだろうか?
本来の人間の寿命は40年
体の形の次は"時間"である。
全ての生き物の心臓が一生に打つ回数は150億回だという。
多くの生物は150億回打つ頃が寿命であり、生物によって鼓動の速さは異なる。
つまり、寿命が短いものは鼓動が早く、ものすごいスピードで命を燃やしている。
人間は1秒1回の鼓動を打つ。
猫を飼っている人ならば、猫の心臓の鼓動が早いのは知っているだろう。
ちなみにネズミはもっと早く、0.1秒に1回という鼓動である。
だが、人間の場合、150億回鼓動が打つと年齢はちょうど41歳あたりだという。
人間は40歳を過ぎた頃から閉経や老眼、髪の毛の減少が如実に表れる。
例えば日本では現在平均寿命が80歳くらいだが、それは生物としては普通か?
実は平均寿命がこんなに延びたのもつい最近になってから。
寿命は、江戸時代で40歳、昭和22年でも50歳だという。
これは人間の体が丈夫になったからではない。
医療が目まぐるしく進歩したからだ。
ほとんどの生物は生殖を終えると死ぬ。
自然界では、年老いた生物は原則的に存在しないという。
年をとって力が弱くなったものや動けなくなったら捕食されるか、細菌にやられるかだ。
野生の世界では、年をとって生殖に参加できないものは消えてゆく。
寿命できっちりと生を終えるのが普通なのだ。
しかし人間は生殖年齢を終えても老後の人生が待っている。
還暦を過ぎた人間は本来の寿命からかけ離れ、現代の医療技術によって生きながらえている人工生命体だということらしい。
別に長生きしている人を侮辱するわけではない。
命の前半は生物としての正規の部分、後半は人工生命体という二部構成というのが現代の人間なのだ。
終わりに
本書を一言で言えば「生物学から考える近代の機械文明批判」である。
最初こそサンゴ礁の現状から始まり、次には生物の形を考え、そして時間を考えた。
人間は本来の生物の形とは全く異なるものに囲まれて暮らし、ものすごい勢いでエネルギーを消費して、目まぐるしい社会を生きている。
人口生命体となった人生の後半をどう生き抜くか、猛スピードで進む社会の中で一度立ち止まって考えてみるのも良いかもしれない。