ヌタウナギとは? ウナギとは違う? そもそも魚じゃない?
ヌタウナギは、我々のよく知るウナギとは程遠く、厳密な分類では魚類にすら分類されていない。
彼らは無顎類や円口類という生物に分類され、魚類図鑑において「魚類とは最も遠縁の生物」だとか、「原始的な魚類」などと載っている。
今回はそんな不思議なヌタウナギについて語ろう。
目次
ヌタウナギとは?
ヌタウナギとは、ヌタウナギ類(正確にはヌタウナギ綱)の総称である。
一口にヌタウナギと言っても、ヌタウナギ、クロヌタウナギ、ホソヌタウナギなど様々な種類がおり、これらをまとめてヌタウナギと呼んでいる。
ヌタウナギは世界に約80種近くが確認されており、温帯域に主に生息するが、熱帯域にはいない。
生息する海の深さは浅海域~深海域まで、様々である。
ウナギでもなく、魚類でもない
ヌタウナギの分類を図示すると以下のようになっている。
ヌタウナギが属する無顎口上綱(むがっこうじょうこう)の生物たちは、無顎類、円口類とも呼ばれ、文字通り顎(あご)を持たない生物たちである。
ところで、私たちが一般的に魚類と呼んでいる生物たちは、実は上図の顎口上綱というグループの中に分類されている。
顎口上綱に属する生物には軟骨"魚"綱、硬骨"魚"綱と、はっきり"魚"という文字が入っている。
だが、ヌタウナギは無顎口上綱の中にいる。
ちなみに、私たちが普段かば焼きなどにして美味しく頂いているなじみ深いウナギは硬骨魚綱の中にいる。
つまり、ヌタウナギは我々のよく知るウナギとは外見が似ているだけで、全くの別種であるばかりか、魚類にすら分類されていないのである。
↓下は私たちに馴染みのある普通のウナギ
体の特徴と生態
ヌタウナギは体の特徴などから原始的な生物・生きた化石とも呼ばれている。
他の脊椎動物とは一線を画すような構造をしていたり、謎も多い生物である。
では、そんなヌタウナギの生態や体の特徴を見ていこう。
顎がない?
ヌタウナギは無顎類であり、我々人間や海に生息している多くの魚のような上下に開閉する顎がない。
ヌタウナギの口の構造は、円形または楕円形の口で、左右にキザギザの歯がついており、口を左右に開閉することで噛むことができる。
運動は苦手?
ヌタウナギは動きが緩慢であり、素早く泳ぐとか、機敏に泳ぎ回るような運動は苦手である。
その理由として
- 脊椎動物の中で動脈血圧が最も低い
- 小脳がない
ことが挙げられる。
まず、ヌタウナギは動脈血圧が低い。
これが何を意味するのかというと、血液を全身に送り出す心臓の力がかなり弱いということである。
事実ヌタウナギには心臓が3~4つある。
次に、小脳がないことも運動能力の低さを物語っている。
小脳は我々人間にとっても、運動能力を制御する役割を持つ非常に重要な部分である。
夜行性だが・・・
ヌタウナギは上記のように運動能力が低いため、外敵が多い昼間の活動は避ける。
つまり夜行性である。
その眼は皮膚の下に埋没してしまっており(退化している)、水晶体や虹彩がない。
もちろん目を動かすような筋肉もない。
しかし網膜と視神経は存在しており、はっきりとした獲物や敵の姿は見えなくても光を感知することはできる。
光を感じとる器官が頭部と尾部の皮膚に集中的にあるとのこと。
つまり、昼夜の区別はできている。
腐食性
ヌタウナギは何を食べているのかというと、基本的に腐食性。
つまり死骸や弱った魚などを狙う。
死んで海の底に沈んだクジラの死骸などを真っ先に嗅ぎつけ、群がる姿がよく撮影されている(結構気持ち悪い笑)。
細長い体で狭い場所まで潜り込み、肉をはぎ取るようにして食らう。
また驚くべきことに、ヌタウナギは腐肉や死骸の中(無酸素状態)に潜り込み、しばらくの間生きられることが確認されている。
※このようなことが可能な理由は心臓が複数あることと関係しています。
スーパースライマー
ヌタウナギを象徴する特性が、とにかく大量の粘液を放出することである。
※粘液は英語でslime(スライム)という。
腹部にある粘液孔という場所から出すのだが、この粘液がヌタウナギの最大の武器である。
その量はなんと、一瞬で960ミリリットル程を出せるとのこと。
これはカップ4~5杯分に相当するほどの量。
この粘液を使い、防御面では、サメなどの外敵に噛みつかれたりすると大量に放出し、撃退する。
攻撃面では、弱った魚などの口から入り込み、粘液を大量に出して窒息させるというエグいこともする。
また、ヌタウナギは一度噛みつかれたくらいではダメージを受けない。
ヌタウナギの皮膚はダブダブにたるんでおり、歯などが通りにくいのだ。
むしろ相手に噛みつかせ、口が開いた状態で思いっきり粘液を出して窒息させようとする。
※粘液については以下のナショナルジオグラフィックの記事を参照にしました。
大量の粘液でサメを撃退する動画も見られるので、是非見てみてください。
柔軟性が高い体
ヌタウナギは脊椎動物でありながら脊柱(背骨)を持たない唯一の動物である。
本当に脊椎動物なのか疑いたくなるが、脊柱の代わりに脊索というものを持っている。
脊索は軟骨性であるため柔らかく、このおかげでヌタウナギは自分自身の体を結んでしまえるほどの柔軟性を持っている。
ちなみに、脊索は基本的に脊椎動物の発生時に共通して見られるが、成長とともに背骨に置き換わる。
しかし、中にはヌタウナギのように脊索を体の支えとしてずっと持ち続ける生物もいる。
粘液の研究と活用
ヌタウナギのアイデンティティーである強力な粘液は、人類にとっても利益をもたらす可能性がある物質として、研究が進められている。
粘液の中には大量に繊維が入っており、この繊維がクモの糸に匹敵する強度と軽さを持っていることが分かったのだ。
クモの糸で衣服を作る研究はだいぶ前からされており、ヌタウナギの粘液も有効活用できないか模索されている。
もしヌタウナギの粘液が有効に活用された場合、ナイロンの代替となることが期待できる。
ナイロンは石油から作られているので、もしヌタウナギという生物由来の繊維が有効に活用できれば、石油の消費量が減り、結果的に環境保全に一役買うだろう。
まとめ
- ヌタウナギは私たちがよく知るウナギとは全くの別種であり、厳密には魚類にすら分類されていない
- ヌタウナギは泳ぎがあまり得意ではなく、夜行性である
- ヌタウナギは大量の粘液という強力な武器を持っており、これを使って攻撃と防御を行う
- 粘液は大量に繊維を含んでおり、今後生物由来の繊維としての有効活用が研究、模索されている