遺伝子とは? グリフィスの実験とは?
生物は全て遺伝子を持っており、遺伝子の本体はDNAである。
このことは今でこそ自明であるが、では遺伝子の本体がDNAと分かるまでにどのような紆余曲折があったのだろうか。
今回はDNAが遺伝子の正体だと証明されるまでの、ある実験を見ていこう。
目次
遺伝子とは何か?
遺伝子とは、親から子に伝わり、かつその生物の性質(専門用語では形質)を決定するものである。
親と子の外見が似る傾向にあるのも、子が親から遺伝子を引き継ぎ、それをもとに体が作られるからである。
そして遺伝子はDNAによって保存されている。
生物の体は細胞でできているが、具体的にどのような細胞を作るかは、どのような遺伝子を持っているかによって決まってくる。
遺伝子はどこにある?
少し前までは、遺伝子はどこにあるのか、そして遺伝子の本体がDNAだということは分かっていなかった。
実際に遺伝子の本体がDNAだと確実視されたのが1950年ころなのである。
生物を研究している人たちは、どうして親と子が似るのか疑問に思っていた。
彼らは、親から子に引き継がれる「何か」があり、その「何か」をもとに体が作られているのでなないかと考えたのだ。
そこで遺伝子というものが次のように定義される。
遺伝子とは
- 親から子に伝わるもの
- 生物の形質を決定するもの
と定義されたのだ。
では上記のように定義づけられた遺伝子は体のどこにあるのだろうか。
細胞のどこにそんな働きをしているところがあるのだろか。
こういった疑問や遺伝子の正体を暴くため、研究や実験をおこなった人たちがいる。
特に有名なのがグリフィス、ハーシー、チェイス、アベリーという4人の人たちである。
本記事ではグリフィスの実験についてこれから解説していく。
グリフィスの実験
イギリスの遺伝学者だったグリフィスは、肺炎双球菌(肺炎レンサ球菌とも呼ばれる)という細菌を使い、実験を行った。
肺炎双球菌とは肺炎を引き起こす細菌であり、これが原因で肺炎にかかり、苦しんだ経験をした方も多いだろう。
グリフィスはこの肺炎双球菌とマウスを使って以下の実験を行ったのである。
まず、肺炎双球菌にはS型とR型という2つの型があることが知られている。
このうち病原性を持つのはS型で、実際に肺炎を引き起こすのはこのS型に感染した場合である。
そしてグリフィスは4匹のマウスにぞれぞれ、①生きたS型の肺炎双球菌、②生きたR型、③煮沸した(熱で殺菌した)S型、④生きたR型と煮沸したS型を混ぜたものを投与した。
その経過を観察したところ、結果①と④のマウスが肺炎で死亡した。
さらに④からは、何と生きたS型菌が検出された。
疑問と仮説
④のS型って煮沸殺菌されて死んでいたはずでは?
この結果で疑問なのが、4番目のマウスはなぜ死亡したのか、そして殺菌したはずのS型がなぜ生きて検出されたのかということだ。
1~3番の結果は納得がいく。
1番目は生きたS型に感染し、2番目は病原性のないR型だから生きているし、3番目もS型は死んでいるので、投与されたマウスが生きているのは自然なことである。
ここで4番目の結果に対して、例えば以下のようなことが考えられる。
- S型が生き返った
- R型にも、実はS型と同じものを作る能力があった
- S型の何らかの成分がR型に移り、R型を変化させた
1は「は?」って感じだし、2は、②のマウスで否定されている。
もしR型がもともとS型と同じものを作る能力があるのであれば、②のマウスも死亡しているはずであるだからである。
そこで、グリフィスは実験結果から
S型の「何か」がR型に移り、R型を変化させたとし、その「何か」ははっきりとは分からないが、「何か」は少なくとも熱に強いものである。
と結論付けたのである。
コラム:なぜS型だけ病原性があるのか
細菌は自身の細胞において、細胞膜の他、細胞壁を持つという二重膜構造をしているが、一部の細菌は細胞壁のさらに外側に莢膜(きょうまく)と呼ばれる膜を持つ。
莢膜を持つ細菌は見た目がまるでカプセル錠剤に包まれたかのようになっており、肺炎双球菌のS型はまさにこの莢膜を持つ型である。
莢膜は、細菌が生物の体内に侵入した際、それを排除しに来た免疫細胞から逃れるための防御の役割をしている。
莢膜を持った細菌は表面がツルツルしており、免疫細胞が捕まえにくいとのこと。
S型の肺炎双球菌は免疫細胞に捕まりにくいため、存分に生物の体内で暴れられる(病気を引き起こせる)というわけである。
ちなみに、肺炎双球菌のS型のSも英語のSmooth(意味:つるつるした、滑らかな)の頭文字をとったものである。
一方でR型のRはRough(意味:ざらざらした)の頭文字をとったものである。
↓生物の細胞の中の器官について、以下の記事も暇があったらご覧あれ
グリフィスの実験が意味するもの
グリフィスの実験結果により、遺伝子の正体について、重要なことが示唆された。
グリフィスはこの実験結果より、「遺伝子の正体はDNAだ」とは主張しなかった。
この結果だけではまだ不十分だったためである。
グリフィスが論文にてこの結果を発表した1944年当時は、「遺伝子の正体はタンパク質である」という考えの人が多かった。
だが、グリフィスの発表した「遺伝子の正体であろう"何か"は、少なくとも熱に強い物質である」という結論は大きな衝撃を与えたのである。
その理由は、タンパク質は熱に弱いため、遺伝子の正体はタンパク質であるという多くの人が支持していた一説が半ば否定されたからである。
そして当時の研究では既にDNAの存在が分かっており、さらにDNAは熱に強いことも分かっていた。
つまりグリフィスの実験の結果は、遺伝子の正体がDNAである可能性を示唆したのである。
まとめ
- 遺伝子とは、親から子に伝わり、かつその生物の性質(専門用語では形質)を決定するものである
- どのような遺伝子を持つかによって体の性質や作られる細胞が変わってくる
- 遺伝子の本体はDNAであるが、それが判明するまでには様々な実験や研究があった
- イギリスの遺伝学者グリフィスは肺炎双球菌という細菌を使い、遺伝子の正体は少なくとも"熱に強いもの"であることを証明した
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