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免疫とは何か? どのようなものがあるか?

私たち人間を含め、生物の体には常に外からさまざまな異物が進入し、それを体の免疫システムが排除したり、発病から守っている。

今回は、私たちの体を守る免疫というシステムについて、基礎的なことから簡単に学んでいこう。

 

目次

 

"自己"と"非自己"

免疫とは体内に侵入した異物に対する抵抗力である。

 

生物の体は、体内に侵入した「自分でないもの」を排除しようとする。

この「自分でないもの」を非自己といい、逆に「自分であるもの」、「自分のもの」を自己という。

さらに非自己のことを専門用語で抗原と呼ぶ。

 

つまり、免疫は抗原(=非自己)に対して働く防御システムなのである。

 

"自己"はいつ決まるか?

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自己は生まれる前から決まっているわけでもなく、生まれた瞬間に決まるものでもない

決定されるのは生後半年~1年くらいの間であるため、幼児期に突入するころにはもうすでに決まってしまっていることになる。

 

つまり上記の時期の時期までに体の中にないものが非自己になり、自己の決定以降は異物と見なされ、排除の対象になる。

 

また、異物は必ずしも病原菌のような生物である必要はなく、花粉なども異物とされる。

 

抗原への対処と免疫の種類

体内に抗原が進入すると免疫が発動し、血球の一種である白血球たちがその役割を担う。

 

ここからは、過去に体内に進入したことのない新たな抗原が進入したとき、体内ではどのような免疫がはたらくのかを見ていこう。

 

まず免疫には自然免疫と獲得免疫がある。

 

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自然免疫

別名で先天性免疫とも呼ばれ、体内に異物が進入するとまず最初に発動するのがこの免疫である。

 

この免疫で抗原に対応する白血球は主に好中球、樹状細胞、マクロファージである。

※白血球には色々な種類がいます。

 

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例えば、好中球は抗原を見つけるとそれを自らの体内に取り込み、中でバラバラにして消化してしまう。

 

そして限界まで抗原を食べ続け、食べきれなくなると自殺する。

 

このように体内に取り込むことを食作用といい、バラバラにして消化することを細胞内消化という。

 

自然免疫は主に食作用で抗原を排除する免疫なんだね!

 

獲得免疫

別名で後天性免疫とも呼ばれ、自然免疫では排除できなかった特定の抗原に対してはたらく免疫であり、さらに獲得免疫は体液性免疫細胞性免疫の2つに分かれる。

 

そして獲得免疫が発動するときは、まず体液性免疫が発動する。

今回は、体液性免疫について解説する。

 

体液性免疫とは

体液性免疫とは、抗原に対し特異的にはたらく抗体を生産しておこなう免疫で、いくつかの細胞が連携して特定の抗原をピンポイントで攻撃する。

 

体液性免疫で要となるのは抗体と呼ばれる物質で、これが血液中(体液中)に分泌されて免疫がおこなわれることから、体液性免疫と呼ばれる。

 

体液性免疫の流れ

抗原が体内に侵入すると、まずは自然免疫において好中球などが対処する。

それでも対処できない場合は樹状細胞の出番だ。

※実は樹状細胞は自然免疫、獲得免疫の両方に関与しています。

 

樹状細胞はまず、抗原を見つけると食作用で取り込み、細胞内消化をおこなう。

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ここまでは自然免疫と同じだね!

 

次に、樹状細胞は取り込んでバラバラにした抗原をチラ見せし、「こんなのが入り込んだぞ!」と周囲に抗原の情報を提示する。

これを抗原提示という。

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提示された抗原の情報はヘルパーT細胞という細胞が受け取り、これをもとにインターロイキンという物質を出してB細胞の分化と増殖を促す。

※分化とは、役割がまだ決まっていない細胞が役割を持つようになることです

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分化したB細胞は、その抗原に対する抗体を生み出す抗体産生細胞となり、どんどん抗体を産生するようになる。

抗体産生細胞は目的の抗原に対する抗体のみを産生するため、1個の抗体産生細胞につき1種類の抗体しか作れない

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 抗体は目的の抗原に結合する性質があり、実際に結合するとそれを目印にマクロファージがその抗原をピンポイントで攻撃し、排除していく。

このように抗体が抗原に結合することを抗原抗体反応という。

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こうして、抗原が体内からどんどん消えていくと抗体産生細胞の増殖も終わっていく。

増殖して生き残った抗体産生細胞は役割を終えると一部が長期間保存され、その期間は30年とも言われている。

 

細胞性免疫

抗体を産生しておこなう体液性免疫をもってしても抗原を排除できなかった場合、最後の砦でもある細胞性免疫が発動する。

細胞性免疫は抗体産生をおこなわず、食作用によって抗原を排除する免疫である。

 

抗体では排除しきれない抗原たち

では、細胞性免疫が発動するほどの抗原とは何だろう?

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以下で例を挙げてみる。

 

  • ウイルス
  • がん細胞
  • 結核
  • 移植組織

 

ウイルスは体内に入るとまず細胞に侵入して増殖をおこなう。

ウイルスが細胞に侵入してしまうと、抗体はそれ以上追いかけることができないため、食作用で感染した細胞ごと食べてしまうほうが早いのである。

だからウイルスに対しては細胞性免疫で対処するのだ。

 

一方がん細胞結核分裂速度が早すぎて、抗体を産生していては追いつかないので、これらもまた見つけた瞬間にすぐに食べてしまったほうが良い。

 

最後に移植組織だが、移植組織とは文字通り他から移植した皮膚や臓器などを指す。

移植組織はそれ自体が巨大であるため、体液性免疫の抗体産生とセットで細胞性免疫が発動する

 

※移植組織は拒絶反応などとも関わってくるので、今後別記事で詳しく解説しようと思います。

 

細胞性免疫の仕組み

細胞性免疫においても、まずは抗原(今回はウイルスとする)が樹状細胞などによって食作用を受け、ヘルパーT細胞に抗原提示される。

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ここまでは体液性免疫と同じだよ!

 

細胞性免疫が体液性免疫と違うのはここからである。

抗原提示を受けたヘルパーT細胞は今度はB細胞ではなく、キラーT細胞という細胞に接触し、情報を伝える。

するとキラーT細胞はそのウイルスを認識する能力を得るように分化し、さらに増殖もしていく。

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特定のウイルスを認識できるようになったキラーT細胞は、そのウイルスに侵された細胞を探すのだが、ここでちょっと細胞の話をしよう。

 

細胞はその機能の1つとして、自身が中で作ったタンパク質などを周囲に出すというものがある。

ウイルスに侵入された細胞は乗っ取られてウイルスのタンパク質を作り出し、それを周囲に分泌したりしているのでキラーT細胞はそれを認識して侵された細胞ごと食作用をおこなう。

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※キラーT細胞は便宜上球体で書いていますが、アメーバ状で食作用をおこなうことができます。

 

そして役目を終えるとキラーT細胞は徐々に数を減らしていくが、B細胞と同じように一部が残り、長期間保存される

 

免疫記憶

ここで重要なのは、生き残った抗体産生細胞やキラーT細胞は抗体を生産する能力や、抗原を認識する能力を記憶したまま保存されるという点である。

 

このような抗体産生細胞やキラーT細胞は免疫記憶細胞と呼ばれ、また同じ抗原が体内に入ってきたとき、その抗原に対する抗体の記憶を持つため、即座に対応できる心強い細胞となる。

 

これがいわゆる免疫記憶であり、一度かかった病気にはかかりにくい・かかっても重体になりにくいのはこのためである。

免疫記憶は獲得免疫でのみ見られ、自然免疫の段階では記憶がされない

 

記憶」と言っても、脳じゃなくて抗体産生細胞に記憶されるんだね!

 

 

まとめ

  • 免疫とは体内に侵入した異物に対する抵抗力である

 

  • 免疫の対象となる、対外から入ってきた異物を抗原(非自己)という

 

  • 免疫は血球の一種である白血球が担い、免疫には自然免疫獲得免疫がある

 

  • 自然免疫は抗原が体内に入ってきたときに最初にはたらく免疫であり、食作用細胞内消化で免疫細胞が排除をおこなう

 

  • 獲得免疫は自然免疫で排除できなかった特定の抗原に対してはたらき体液性免疫細胞性免疫の2つがある

 

  • 体液性免疫は抗体を生み出しながらいくつかの細胞が連携して免疫をおこない、異物を排除する免疫である

 

  • 抗体は抗原に結合することで目印になり、抗体が結合した抗原は集中的に攻撃される

 

  • 抗体を産生しても対処できない抗原に対しては、免疫の最終手段でもある細胞性免疫がはたらく

 

  • 細胞性免疫では抗体は生産されず、キラーT細胞が関与し、ウイルスやがん細胞などを食作用で感染した細胞ごと食べてしまう

 

  • 抗体産生細胞やキラーT細胞は抗原が排除されたあとも一部が長期間保存され、これが免疫記憶である

 

  • 免疫記憶がされるのは獲得免疫の段階のみである