間脳とは何か? 自律神経はどういう役割をしているのか?
外の気温が変化しようが、塩分をちょっと多く摂りすぎようが、私たちの体内はあらゆる変化に対して一定の状態を保とうとする。
しかし、体内の環境を一定に保つにはその"変化"を認識する必要がある。
では私たちの体は、どのようにして体内環境の変化を感じ取っているのだろうか?
↓恒常性については以下の記事で簡単に説明しています
目次
間脳とは何か?
下図は脳の横からの断面を簡易的に描いたものである。
間脳は文字通り右脳と左脳の間にあり、視床下部、視床、視床上部の3つの領域から構成されている。
そしてこれからお話する神経の話では、特に重要になってくるのが視床下部である。
なぜならば、私たちは体温や体液の濃度の変化を間脳の視床下部という場所で感じ取っているからだ。
体温が低下してしまったり、血糖値が高くなってしまった場合など、体内環境に変化が起こると、それをまず間脳が認識する。
そして間脳は変化を認識すると自律神経系やホルモン系に働きかけ、体の状態を一定に保つ中枢の役割を担う。
自律神経
私たちの体には無数の神経が通っていて、中でも呼吸や消化、血液の循環などの全身のあらゆる器官をコントロールしている神経をまとめて自律神経(系)と呼ぶ。
自律神経は自分の意思とは関係なくはたらき、交感神経と副交感神経の2種類がある。
それぞれの神経からは神経伝達物質という物質が分泌され、全身のあらゆる器官の機能を促進したり抑制したりする。
交感神経
交感神経は喧嘩をするとき(何かと闘うとき)や、激しい運動をするときに活性化する神経である。
交感神経からはノルアドレナリンやアドレナリンといった神経伝達物質が分泌され、主に各器官に対して促進的にはたらく。
では、この交感神経が何の役に立つのか。
実は交感神経が上手く働くことで、敵から身を守るために闘ったり、あるいは逃走したりといった行動を有利に行うことができる。
下図は、交感神経が活性して神経伝達物質が分泌されたときの各器官の反応である。
例えば、森を歩いていてクマに遭遇したときのことを想像してみてほしい。
きっとあなたの心臓の鼓動は早くなり、呼吸は荒くなるだろう。
さらに、瞳孔は大きく開き、鳥肌が立ち(立毛筋の収縮による)、汗も大量にかくかもしれない。
これらは全て交感神経が活性化するからこそ起こる反応である。
もし交感神経が働かなければ、目の前に大きなクマがいるにも関わらず、なぜか空腹や眠気を感じたり、トイレに行きたくなったり、別のことに気をとられて的確な行動ができなくなってしまう。
※交感神経が活性化されると、膀胱は弛緩することによって柔らかくなり、結果尿をため込むことができる量が増えるので尿意を感じにくくなります。
また、表に記載されている器官は一部であり、他には例えば唾液腺の活動は抑制されて唾液が出なくなり、喉や口がカラカラに乾いたりします。
表のように、交感神経は何でもかんでも促進させるわけじゃないよ!特に消化系の運動は抑制されるんだ!
副交感神経
副交感神経は、交感神経とは逆に体を安静の状態にしようとするとき、あるいはリラックスしているときに活性化する神経である。
副交感神経からはアセチルコリンという神経伝達物質が分泌され、主に各器官に対して抑制的にはたらく。
交感神経がオンのスイッチだとすれば、副交感神経はオフのスイッチに近い。
副交感神経が上手くはたらくことで、体がしっかり休養をとることができる。
下図は、副交感神経が活性して神経伝達物質が分泌されたときの各器官の反応である。
では、さきほどの交感神経の例の続きで、遭遇した野生のクマから上手く逃げ切ったあとのことを考えてみよう。
心臓の鼓動や呼吸は徐々に落ち着きを取り戻してくるだろう。
恐怖が過ぎ去って思わず漏らしてしまうかもしれない。
これらは全て副交感神経が活性化するからこそ起こる反応である。
何もしてないのに突然体から汗が出てきたり、心臓の鼓動が早くなったりするのは自律神経(副交感神経)に異常がある可能性が高い。
例えば緊張などが和らいで、「安心したら腹が減ってきた」というのもまさに副交感神経が働いている証拠!
※上2つの表をまとめてみました
レーウィの実験
ところで、神経伝達物質はどのようにして各器官に伝わるのだろうか。
これを実験で突き止めた人物がドイツの薬理学者レーウィである。
レーウィは生きたカエルの心臓を用い、心臓をホースで2つ繋げた装置を作って実験を行った。
そしてホースで繋げた2つの心臓に、人間の体液に近い濃度に調整されたリンガー液を矢印の一定方向に流したのである。
※図では省略していますが、ちゃんと循環するように2つの心臓は繋がっています。
レーウィは各心臓についている交感神経と副交感神経を刺激し、その様子を観察した。
交感神経を刺激すると心臓の拍動は早まり、副交感神経の場合はゆっくりになる(抑制される)。
まず、心臓Aの交感神経または副交感神経を刺激すると、遅れて心臓Bの拍動にも変化があった。
どういうことかというと、心臓Aの交感神経を刺激すると当然心臓Aの鼓動は早くなったが、遅れて心臓Bの鼓動も早まったのである。
今度は逆に、心臓Bのみを刺激してみる。
すると、心臓Bの交感神経または副交感神経を刺激してみると、心臓Bの鼓動は早くなったり遅くなったりの変化はあったものの、心臓Aの鼓動には何ら変化がなかったのである。
つまり、この実験の結果より、神経伝達物質はリンガー液中(血中)に分泌されて各器官に作用するということが分かったのである。
※リンガー液
別名リンゲル液とも言い、生理食塩水の一種として呼ばれたりもします。生物の体液に近い組成に調整された溶液で、生物実験などでよく使用されます。体から取り出した心臓をこの液体に入れると、短時間であるが生かすことができます。
まとめ
- 体温や体液の濃度の変化は間脳の視床下部という場所で感じ取られる
- 間脳は自律神経系やホルモン系にはたらきかけ、体の恒常性を維持する中枢を担う
- 自律神経には交感神経と副交感神経の2種類がある
- 交感神経は、喧嘩をするとき、運動をするときなどに優位になり、主に各器官の活動を促進させる方向にはたらく
- 副交感神経は、体を安静にしようとするとき、休眠するときなどに優位になり、主に各器官の活動を抑制させる方向にはたらく
- レーウィは神経伝達物質が血中に分泌されて各器官に作用することを実験で突き止めた