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光合成とは何か? 光の強さや温度、二酸化炭素との関係は?

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動物は生きるためのエネルギーを得るために、餌を求めて活動する。

しかし植物は動物と違い、動き回ることができない。

だから植物は自力でエネルギーを作る仕組みを生み出した。

それが光合成であり、今回はそんな植物の光合成の話。

 

目次

 

光合成とは?

光合成とは、光エネルギーを利用して、無機物から有機を作る代謝の一種

植物の細胞の中にある葉緑体という器官でおこなわれる。

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上図は葉緑体を簡単に描いたもの。blue devilさんによるイラストACからのイラストより。

 

光合成に利用する光エネルギーとは、日光である。

さらに、ここでいう無機物とは、二酸化炭素のこと。

そして光合成によって作られる有機物がグルコース(、炭水化物とも言う)である。

 

光合成の仕組み

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光が当たると、そのエネルギーは植物の葉にある葉緑体にて吸収され、ATPという物質ができる。

光合成に使われる水は根から二酸化炭素は葉の気孔から取り込まれる。

 

そして、合成した ATPを使って化学反応を起こし、有機物(グルコース)を生成する。

 

 ↓代謝やATPに関しては以下の記事で簡単に解説しています。お時間がある方はぜひ!

inarikue.hatenablog.com

 

外的要因

光合成は、外的要因によって効率が上下する。

光合成はただ光さえ当たれば良いというわけではないのだ。

外的要因とは、温度二酸化炭素の濃度である。

 

また、葉の面積あたりの二酸化炭素吸収量光合成速度という。

光合成速度は光合成の効率を表すものである。

 

温度

光合成速度は、弱光下では温度に関係なく一定になる。

しかし、光が強くなると温度による影響を受け、温度が高くなるほど光合成速度が大きくなる

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光合成速度は温度がだいたい30℃で最大になり、それ以上になると光合成速度は急速に低下する。

一般的に、寒冷地に生息する植物は、強光下において光合成速度が最大に達する温度はそれよりも低く、熱帯に生息する植物は高い。

 

二酸化炭素の濃度

光合成速度は二酸化炭素の濃度が高くなると大きくなる

しかし、これにも限界があり、濃度がある程度高くなると一定になる。

 

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光合成速度が一定になる二酸化炭素濃度は、強光下という条件では弱光下条件よりも高くなる

十分な光があって初めて二酸化炭素を効率的に吸収できるのである

 

 葉緑体と色素

植物が光合成をおこなえるのは、葉緑体のおかげだ。

葉緑体植物の細胞においてのみ見られる細胞内器官で、特に葉の表側の細胞に集中して分布している。

 

植物が光を利用できるのは、この葉緑体が光を吸収することができるからなのである。 

さらに詳しく言うと、葉緑体光合成色素と呼ばれる色素を持ち、この色素によって光が吸収されるのである。

 

この光合成色素にはいくつかの種類があり、色素によって吸収できる光が異なる

また、植物の種類によって持っている色素が異なっている

 

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光合成と光の色(波長)

一口に"光"と言っても、光には様々な波長があり、色がある

かなり大雑把に簡単に言うと、太陽光は、赤とか青とか紫とか、様々な色の光が集まってできている

※光の波長については、生物学からは少々外れるので、今回は詳しく解説しません。

 

植物にとって光の色(波長)は重要である。

なぜならば、先ほど述べたように光合成色素の種類によって吸収できる色、反射する色が異なるからだ。

 

そして植物にとってどの色の光が重要なのかを示してくれるのが吸収スペクトルと作用スペクトルだ。

 

吸収スペクトル

まず、吸収スペクトルとは、光合成色素ごとに各色(波長)の光をどれほど吸収するかをまとめたグラフである。

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※かなり簡略化して作成しています。

 

吸収スペクトルを見ると、例えば多くの植物が持つクロロフィルa紫や赤色のところで吸光度が高くなっていることが分かる。

実は、植物の光合成には"光"が必要であるが、特に重要なのが赤色の光紫色の光なのだ。

 

一方で、植物に縁がありそうな緑色はあまり吸収されていない

吸収されない光は反射される。

 

反射された光は、そのまま私たちの目に届くことになるよ!植物が緑色をしているのは、緑色の光を吸収せずに反射しているからなんだよ!

 

作用スペクトル

今度は作用スペクトルを見てみよう。 

作用スペクトルとは、各波長の光に対して光合成がどれほど効率的におこなわれるかをまとめたグラフである。

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やはり、紫色と赤色のところで光合成効率が高くなっている

吸収スペクトルと作用スペクトルのグラフから、光合成色素にもよるが、植物は紫と赤色を吸収しやすく、それらの光を利用すると光合成を効率的に行えることが分かる。

 

クロロフィルやカロテンに吸収される紫や赤の光は、作用スペクトルにおいて、高い光合成効率を示しているね!

 

※緑色の光について

吸収スペクトルを見ると、植物は緑色の光をよく反射し、あまり吸収しません。

ですが、これは植物が光合成をするにあたって緑色の光を全く利用できないことを意味しているわけではありません

作用スペクトルを見てみると、紫や赤と比べると確かに緑色のところで光合成効率は低いです。

ただ、あくまで効率が下がるだけで光合成が不可能なわけではありません。

緑色光下では植物は全く育たないというわけではないのです。

 

光の強さと植物の成長

基本的に植物は光合成をして栄養を作り、それを糧に成長していく。

ならば光を浴びさせまくれば植物はどこまでも育つのかというと、そうではなく、やはりバランスが大事だ。

 

以下は、植物の光合成速度と、光の強さの関係を示したグラフである。

 

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図のように、基本的には植物は光が強くなると、その強さに比例するように光合成をより活発におこなう

しかし、光の強さがある点に達すると、それ以上は光合成速度(二酸化炭素の吸収量)が一定になる

この境目を飽和点という。

 

また、グラフの補償点とは、光合成による二酸化炭素の吸収量と、植物自身の呼吸による二酸化炭素の排出の量が釣り合っている点である。

 

だから補償点以下の光合成速度がマイナスの領域では、植物は「吐き出す二酸化炭素>吸収する二酸化炭素となっている。

 

ちなみに、光の強さが補償点を下回ると、光合成によって生み出すエネルギーよりも呼吸で消費するエネルギーが多くなるので、やがてその植物は枯死する。

 

光を弱くしていくと、光合成速度が落ちて二酸化炭素の吸収量も落ちるよね。すると、植物が普段行なっている呼吸による二酸化炭素の排出量が勝ってくるんだよ。

 

陽性植物と陰性植物

植物の成長には多すぎず、少なすぎずの量の光が必要であることは確かだ。

けれども、その植物にとってどれくらいの量の光がちょうど良いのかは種類によって異なる。

 

そこで、成長に必要な光の量に応じ、植物は陽性植物陰生植物の2つに大分できる。

 

陽性植物は主に強光下でないと生育できない植物たちである。

タンポポ、チューリプ、イネなど、よく目にする植物たちが多い。

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それに対し、陰生植物は比較的弱い光でも生育が可能である。

コケやシダ植物などが例である。

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では、今度は陽性植物と陰性植物の光合成速度を比べてみよう。 

以下は、先ほどのグラフを用い、陽性植物と陰生植物の光合成速度を比較したものである。

 

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ご覧の通り、強光下では陽性植物のほうが光合成速度が早く、飽和点も高い

しかし、光が弱くなっていくと、陰生植物が光合成速度で勝るようになる。

陽性植物が強光下でよく成長し、陰性植物が弱光下でも成長できる理由がここにある。

 

では、陽性植物と陰生植物でなぜこのような差が出るのだろうか。

実は、陽性植物の葉は陰生植物の葉よりも少し厚めにできておりその厚さの分葉の細胞数が多いのである。

 

細胞数が多いということは葉緑体の数も多いということであり、このため陽性植物は沢山の光を浴びて光合成をする必要があるし、強い光を浴びても高い光合成速度を出すことができるのである。

 

陽性植物だから弱い、陰生植物だから強いとか、そういうことじゃないんだね!

 

まとめ

  • 光合成とは、光エネルギーを利用して、無機物から有機物を作る代謝の一種である

 

 

  • 葉緑体光合成色素を持ち、この色素を持つことで日光の吸収を可能としている

 

  • どの光合成色素を持つかは植物の種類によって異なる

 

  • 吸収スペクトル作用スペクトルを用いれば、日光の中のどの色(波長)の光が植物の生育に欠かせないかが分かる

 

  • 植物は強い光を当てても光合成の効率は一定までしか上がらない

 

  • 植物は、成長に強光を必要とする陽性植物と、弱光下でも生育可能な陰性植物に分けることができる