エボラウイルス病とはどういう病気なのか?
2014年頃に世界的な流行の兆しを見せ始め、一部地域ではWHOが緊急事態宣言をするなど、世界中が注目し、震撼したエボラウイルス病。
この非常に危険な感染症は今現在もなお、流行を繰り返している。
今回は、エボラウイルス病とはどういう病気なのか学んでいこう。
目次
アフリカの風土病
エボラウイルス病は、元々はアフリカ中央部の一部の国の僻村で見られた風土病であった。
この病気の存在が初めて確認されたのは1976年、アフリカ中央部のスーダンとザイール(現在のコンゴ民主共和国)いう国で、それ以降、付近の地域で度々流行を繰り返してきた。
スーダンとザイールで同年に発生したエボラウイルス病だが、その原因であるエボラウイルスは、発生した両国で型が異なっており、それぞれスーダン型とザイール型として型分けがされている。
※国立感染症研究所より作成https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/vhf/ebora/392-encyclopedia/342-ebora-intro.html
なお、エボラウイルス病は最近までエボラ出血熱と呼ばれていた。
症状の1つとして、体からの出血を伴うからである。
しかし2014年にWHOは、エボラウイルスに感染しても出血症状が出ない患者が多数いることから、病名を「エボラウイルス病」へと表記を改めた。
※これにより国際的には「エボラウイルス病」で定着しつつありますが、日本の感染症法では「エボラ出血熱」とされているため、後者で病名を呼ぶ場合も多いです。本記事ではWHOの表記にならってエボラウイルス病と表現しています。
どのような病気なのか
エボラウイルス病とは、エボラウイルスを原因とする感染症である。
人などの霊長類に感染すると急性の熱性疾患(発熱を伴う症状)を引き起こし、致死率が非常に高いのが特徴である。
その初期症状はインフルエンザに似ており、その後は嘔吐や下痢などの消化器系の症状が現れる。
重篤化すると、吐血や歯肉からの出血、消化管からの出血が起こる。
ただし、出血症状が現れるのは全患者の70%程度であり、それも重症患者に限られる。
潜伏期間
潜伏期間は2~21日で、結構幅がある。
ただ、実際に感染した患者の平均をとるとだいたいが7~10日が潜伏期間となっている。
潜伏期間を過ぎて発症すると、初期症状はインフルエンザに似ているため、病気の判断が難しい。
発症7~10日も経てば重篤化し、最終的にショック症状などによって死に至るケースが多い。
非常に高い致死率
エボラウイルス病は致死率が非常に高い点も恐ろしい。
病原であるウイルスの型によって致死率は多少異なるが、中でもザイール型のウイルスは病原性がかなり強く、処置を施さなければ90%近い致死率を叩き出す。
適切な処置を施せば致死率を50%程度にまで低下させることができるが、それでも十分高い。
しかも、その"適切な処置"というのは、徹底した集中治療のことで、脱水に対する大量の輸液や心臓や肺の管理など全身の処置が必要である。
医療体制が整った先進国ならまだしも、病気の流行地は医療が不十分である地域も多いアフリカである。
そのため流行地域では、現在でも6割に及ぶような非常に高い致死率が出ている。
感染経路
エボラウイルスの主な感染経路は、患者の血液や体液への接触である。
潜伏期間中は、患者は感染源にならないので、症状を発症した患者の血液や吐瀉物(としゃぶつ)などに触れないようにすれば、感染の危険は低くなる。
飛沫感染や空気感染については、よく分かっていないらしいので注意は十分必要である。
防護マスク等を着用して治療にあたっていた者が発症したケースがあるので、そもそも患者にはなるべく近づかないことが対策になるのかもしれない。
重症化した患者の血液からは、1mlあたり1億個ものエボラウイルスが検出される。
そのため、体液や血液への素手での接触では、ほぼほぼ感染が成立すると推定されている。
エボラウイルスとは
ここまで、エボラウイルス病の症状について見てきたが、ではこのような恐ろしい病原性を発揮するエボラウイルスとは何者なのだろうか?
エボラウイルスは、フィロウイルス科に分類されるウイルスで、マールブルク病を発症させるマールブルウイルスと同じグループに属している。
このフィロウイルス科のウイルスの特徴としては、人を始めとする霊長類(ゴリラやチンパンジー)などに対して強い病原性を発揮し、致死率も非常に高いことが挙げられる。
構造
エボラウイルスは、形がU字型になっていたり、ゼンマイ状になっていたりと、形が多様である。
またその大きさはインフルエンザウイルスの7倍以上あり、巨大なウイルスでもある。
エボラウイルスは、遺伝子としてDNAではなくRNAを持つRNAウイルスである。
ウイルス体の表面は1種類のタンパク質(GPタンパク質と呼ばれる)で覆われ、このタンパク質が感染対象の細胞への結合から侵入までを担い、さらにウイルスの性質をも決定する。
そのため、このGPタンパク質がワクチン開発への鍵となっており、主要な研究対象となっている。
5種類いる
エボラウイルスはこれまでに5種類の亜種が見つかっている。
エボラ・ザイール、エボラ・スーダン、エボラ・ブンディブージョ、エボラ・タイフォレスト、エボラ・レストンの5種類である。
このうち、レストン以外の4種は人に対して強い病原性を示す。
4種の致死率は種類によって30%~90%であるが、中でもザイールが最も病原性が強い。
ちなみにレストンは、人に感染して病原性を発揮したという報告はないという。
ただ、サル間での感染は確認されており、その際の病原性は強い。
しかも空気感染をすることが示されている。
レストンに関して最も重要な事実は、この型のウイルスが見つかったのは2008年で、フィリピンから輸入したサルから偶然検出されたことである。
つまり、エボラウイルスはアフリカのみならず、アジアにも存在しているのである。
自然界ではどこにいるか
Parker_WestによるPixabayからの画像
エボラウイルスは、自然界では何らかの動物を自然宿主として寄生していると考えられているが、根拠のあるデータはまだない。
ただ自然宿主としては、アフリカに生息するコウモリが有力視されている。
周辺地域の野生のコウモリから生きた感染性のエボラウイルスが検出されたことはまだない。
しかし、その地域のコウモリはエボラウイルスを接種しても症状を出さないことが確認されており、さらにエボラウイルスに対する抗体が体内から見つかっている。
流行地域となった中央アフリカではコウモリが食用とされているので、人間とコウモリが接触する機会もある。
よって、これらのことを踏まえてコウモリが自然宿主ではないかと有力視されているのである。
感染と増殖のプロセス
エボラウイルスは体内に侵入すると、まず樹状細胞やマクロファージといった白血球を標的にする。
特に樹状細胞などは、主要な免疫を担当する細胞に対する中間者的な役割を果たしているため、これらが損傷すると、ウイルスの情報が主要な免疫細胞に十分に伝わらず、対処力が大きく損なわれる。
エボラウイルスによって傷害を受けてしまった細胞は、まだウイルスが感染していない正常な免疫細胞を集めてしまうため、これによってエボラウイルスの伝播が促されてしまう。
そしてウイルスは感染した細胞内でものすごいスピードで増殖していく。
ウイルスはある程度増殖すると、その細胞の膜を破って外に出ていく。
すると膜が破られた細胞の中からは、酵素などが漏れ出す。
この漏れ出した酵素などは、普段は細胞内でタンパク質を分解したりしている強力なもので、これが漏れ出すことで周囲の組織にダメージを与える。
こうして、皮膚や臓器などが中から連鎖的に破壊されていく。
さらに勢いづいたウイルスは、血液に乗って全身の器官に到達し、あらゆる臓器・細胞に致命傷を与えながら増殖していく。
エボラウイルスが強い病原性を示し、高い致死率を叩き出すのもこうした全身感染を引き起こすことに理由がある。
血を固めるための物質を作っている肝臓がやられたりすると、体が出血を止める機能がかなり低くなっちゃって、体の各所から出血しちゃうよ!「出血熱」って呼ばれるのもこのためだね!
↓免疫については以下の記事も書いていますのでお時間がある方はどうぞ!
まとめ
- 原因となるエボラウイルスは人や霊長類に対して強い病原性を発揮し、致死率が非常に高い
- 感染が成立すると、消化器系の異常や出血異常などの症状が出る
- エボラウイルスについてはよく分かっていないが、自然界ではコウモリに寄生していると言われている
- エボラウイルスは感染者の全身に症状を起こし、これが高い致死率に繋がっている