生物の体の大きさには規則性がある? ベルクマンの法則とは?
生物には体が非常に大きなものから、ヒトの目には見えないくらいミクロのものまで、様々な大きさのものがいる。
では、生物の大きさはどのような要因で決まるのだろうか。
また、生物の体の大きさには何か規則性のようなものはないのだろうか。
今回は、生物の体の大きさや体重について語ろう。
目次
ベルグマンの法則
どういった生物が大型化しやすいか、あるいは小型化しやすいかといったことについては、実は傾向がある。
それが今回解説するベルクマンの法則とアレンの法則だ。
まず、ベルクマンの法則とは「恒温動物が、南北に渡って分布するとき、寒冷な地域に生息するものほど体が大型化する」という法則だ。
なぜこのような法則があるのだろうか。
答えは生物の体積と表面積にある。
以下の図は前に執筆した細胞に関する記事においても使用した図を使い回したものである。
上の図形を動物の体とみなして考えてみよう。
1辺の長さ=動物の体長、容積=動物の体積とする。
恒温動物では、体温を一定に保つための熱が体内で生み出される一方で、体の表面からは発汗の気化熱などにより熱が放出される。
このとき、体内での熱生産量は体積に、放熱量は体表面積にそれぞれ比例する。
体積が体長の3乗に、そして表面積が体長の2乗にそれぞれ比例するのだ。
つまり、体長が増すにつれ、体積当たりの体表面積は小さくなる。
これが何を意味するのかというと、体が大きくなると熱を放出するための表面積が体積に対して小さくなるので、大きな体は熱を外部に放出しにくくなる。
例えば、温暖な地域では体温維持のために放熱を十分に行う必要がある。
つまり、熱を放出しにくい大型の動物よりも、体積あたりの表面積が大きい小型の動物のほうが都合が良い。
逆に寒冷な地域では、体積あたりの放熱が抑えられる大型の動物であることが生存に有利だ。
このような理由で、寒い北の地域に行けばいくほど、大型の恒温動物が多く生息する傾向にある。
これがベルグマンの法則である。
ベルクマンの法則の典型例は日本に生息するシカでも見られる。
シカは北海道から奄美の屋久島まで広く分布するが、最大なのは北海道のエゾシカで、対して屋久島のヤクシカは小柄である。
また、日本以外でも、ユーラシア大陸・北アメリカ大陸に広く分布するヒグマ、トラやオオカミなども寒冷地に生息しているほうが大型である。
アレンの法則
ベルクマンの法則と少々似た法則がある。
それがアレンの法則で、「恒温動物が、南北に渡って分布するとき、寒冷な地域に生息するものほど、耳や尾など体の突出部が小さくなる」という法則だ。
このような傾向が見られる理由は、寒冷地では突出部から体温を奪われてしまうためだとされている。
ここでベルグマンとアレンの法則を組み合わせると、「寒冷地に生息する恒温動物ほど大型で、体の突出部が小さい」ということになる。
これは極地のホッキョクグマをイメージすれば納得がいく。
またそれとは対照的に、サハラ砂漠に住むフェネックギツネは体は小さく、尾や耳といった突出部はかなり大きい。
フェネックギツネ
大型化のメリットとデメリット
哺乳類が大型化すると、放熱量が体に比して小さいため、外部の環境の変化に強くなることがメリットになる。
それに食物の不足や雑食には体が大きいほうが比較的長期間耐えやすい。
また、大型化すれば天敵が減り、生存や子育てに有利である。
大人になった草食動物(水牛など)はほぼ無敵だもんね
しかし、大型化のメリットがそこまで大きな繁栄をもたらすかというと、微妙なところだ。
かつて地球上に暮らしていたとされる大型の哺乳類(メガテリウムなど)は軒並み絶滅している。
大型化にはもちろんメリットはあるが、様々なリスクもある。
まず、ある程度の飢餓に耐えやすいとはいっても、体を維持するためのエサの絶対量は多いことに変わりはない。
このため、一定地域に生息できる大型動物の個体数は制限が厳しい。
さらに、大型動物は子の数が少なく、子育て期間も長い。
つまり、一度減ってしまうと個体数が回復しにくい。
現在でも、アフリカゾウやゴリラなどの生息数がなかなか増えない理由がここにある。
逆に、ネズミのように多産で小型のものは繁栄しているよ!
体重と運動能力
動物の体重は体長の3乗に、そして筋力は体長の2乗に比例する。
これは、体重が増えるほど筋力に比して肉体的負担が大きくなり、自分を動かすことが困難になってくることを意味している。
例えば、斜面を登るような動きは体重の障害が大きく出る。
ゾウやキリンのような大型哺乳類は平地に多く、山岳地帯には少ないのはこのためだ。
これは鳥類についても同じことが言える。
大きな個体ほど体重のわりに筋力が不足するため、大型の鳥は気流に上手く乗り、滑空を使いこなしている。
スズメのような小さな鳥はせわしなく羽ばたくが、ワシなどの大型の猛禽類や白鳥は風になるための大きな翼を持ち、あまり羽ばたかない。
しかし、水中になると少し話が変わってくる。
水中では浮力があるので、水中生活に適応すると、浮力の分だけ重力から解放される。
そのため、例えばクジラのように、陸上では難しい大型化が水中なら可能だったりする。
タコやイカのように強い骨格をもたない軟体動物が大型化できるのは海だけだ。
陸上でm越えの巨大な軟体動物っていないもんね!
恒温動物以外は?
ベルクマンやアレンの法則が当てはまるのは、あくまで恒温動物の場合だ。
変温動物や昆虫、節足動物などでは、この法則とは逆の現象がしばしば見られる。
大型昆虫は熱帯雨林などの温暖な地域に集中しているのである。
この傾向の理由としては、幼虫が成虫になるまで摂取できる餌の量(栄養量)の差が関係していると考えられている。
要は、幼虫のときに豊富な餌を摂取できれば大きくて立派な成虫になれるのだ。
だから、高緯度の寒冷地や高山の昆虫は一般的に小型のものが多い。
また、それに合わせるかのように、昆虫を主食とするヘビやトカゲといった変温動物も南方地域の種が大きいことが多い。
外皮と大きさの限界
熱代謝や栄養量以外にも大きさを左右する要素がある。
それは体の表面で呼吸をしている生物たちだ。
例えばミミズには最大数mにも達する種がいるが、長さに比してあまり太くない。
太さは長さに比例しないからだ。
どういうことかというと、ミミズは一定以上の太さにはなれないので大きくなるにつれて細長い体型になっていくのである。
ミミズは肺やエラではなく、体の表面から酸素を取り込んで呼吸する。
これにより、体が長くなるのは大丈夫だが、太くなると必要な酸素を取り込むための表面積が不足してしまう。
だから大型のミミズは太いというよりもとにかく長い傾向にある。
脊椎動物とは異なり、昆虫などの無脊椎動物の体を支えるのは背骨ではなく外皮(外骨格)である。
これらが大型するとなれば、体重を支えるために外皮を分厚くする必要がある。
すると、今度はそれが鎧のようになって動きにくくなってしまい、脱皮も困難になる。
つまり、昆虫などは一定以上の大きさにはなれず、一般的に小型である。
動物の卵
昆虫などの外皮のように、爬虫類や鳥類が産む卵についても、厚みによる制約は大きい。
恐竜はかなりの巨体を持ちながら、卵の大きさはせいぜい現存のダチョウくらいだったという。
その理由が卵の厚みだ。
ここで、ニワトリの卵とダチョウの卵を比較して考えてみよう。
一般的に、ダチョウの卵はニワトリの卵の4倍程度の大きさがある。
すると、卵にかかる重力は64倍にもなるが、それを支える面積は16倍にしかならない。
卵が大きくなればなるほど、重力に対してそれを支える面積があまり大きくならないのだ。
ではどうやって卵を支える力をカバーするのかというと、殻を厚くすればよい。
ダチョウの卵の殻の厚さはニワトリの4~5倍もある。
つまり、卵は自らの形を保つため、大きくなるほど殻の厚みを必要とする。
厚くしないと自身の重さで潰れてしまうからだ。
しかし、殻が厚すぎると子が中から割れなくなるため、卵はある程度までしか大きくなれない。
数mにもなる巨大な卵が陸上に存在しないのもこれが理由だ。
現在のワニなどを見てみると、卵や生まれたばかりの子は大人に比べてかなり小さい。
彼らは小さく生まれて大きく育つのだ。
少数を大きく生んで大切に育てる哺乳類とは対照的である。
まとめ
以上簡単に述べてきたように、特に陸上の生物は重力によって受ける影響を無視できないため、体の大きさにはかなりの制限がかけられている。
もちろん、体の大きさを左右する要素は重力だけではなく、栄養量や熱代謝も大きく関わっている。
現在の地球では温暖化が叫ばれているが、温暖化が進行するほど大型の哺乳類は北上を余儀なくされるだろう。
放熱をしにくい体の作りは、寒冷な環境があってこそなのだ。
しばらくは、小型の生物にとって有利な状況が続くかもしれない。
温暖化は非常に難しい問題であるが、こうした知識を取り入れながら様々な環境問題について考えてみると多くのことが見えてくるだろう。