生物の寿命はどのように決まるのか? テロメア、アポトーシスとは?
生物はなぜ老化するのか、なぜ寿命があるのか。
これには諸説があり、テロメアと呼ばれるものが大きく関係しているのだとか。
今回は、生物の死について簡単に解説していこうと思う。
目次
寿命と細胞分裂
寿命とは何だろうか。
動物の細胞を培養し、その分裂の様子を観察していると、一定の回数で分裂が止まってしまう。
これは、細胞の分裂の回数は生物ごとに決まっていることを意味する。
そしてその限界こそが老化であり寿命なのである。
テロメア
生物の寿命や老化に関係しているとされるものの1つに、テロメアがある。
動物など、真核生物の染色体の末端には、タンパク質でできた構造をしたテロメアと呼ばれるものがある。
テロメアは染色体の構造を安定化する役割を持っているが、このテロメアには短い塩基配列が繰り返し並ぶという独特な配列がある。
上図のように、「TTAGGG」という塩基配列が染色体の末端で延々と並び、その数は数千にもなる。
そしてこのテロメアは、細胞分裂をするごとに短くなるという特徴を持っている。
分裂1回ごとにすり減るようにしてなくなっていく。
では、だいたい何回くらい分裂するとなくなってしまうのかというと、これは生物によって回数が決まっている。
この、分裂回数の限界をヘイフリック限界という。
ヘイフリック限界は、その生物の寿命が長ければ長いほど大きくなる。
例えばヒトは50回、ウマ30回、ウサギ20回、マウス10回で、長寿で知られるガラパゴスゾウガメで100回である。
ヒトの寿命はどんなに頑張っても120歳くらいまでしか生きられないらしく、上記に挙げた動物たちの最長寿命は、ウマ46年、ウサギ10年、マウス3年、ガラパゴスゾウガメ200年である。
※ヒトは120歳くらいまでが限界と説明しましたが、これは哺乳類の中ではかなりの長寿です。ちなみに、ヒトの最高長寿記録者はフランスのジャンヌ・カルマンさんという女性の方で122歳まで生きました。
このように、テロメアが細胞分裂の回数限度を決めていて、限度を超えると染色体が形を保てなくなり、さらに細胞は分裂できなくなり、結果個体は死んでしまうので、その生物の寿命になる。
しかし、全てがテロメアで決定されているわけではない。
例えばヒトの脳細胞や心筋細胞は分裂をほとんどしないのでテロメアが減ることはない。
じゃあ脳や心臓は不死なのかというと、そうではなく、徐々に細胞内に老廃物がたまっていき、途中で機能不全を起こすのでやっぱり死んでしまう。
テロメアは伸ばせる?
実は、すり切れたテロメアを伸ばすことができる酵素が見つかっている。
では体のどこにそんなものを作る場所があるかというと、残念ながら人間の体細胞にはそのような能力はない。
テロメアーゼを合成できるとされているのは幹細胞、生殖細胞と、がん細胞である。
がん細胞は何百回分裂しようがおかまいなしに無限に増え続けることで有名で、これはがん細胞がテロメアーゼを持っているからである。
がん治療の研究で、テロメアーゼの合成を阻害する酵素をがん細胞に注入すれば、がんは分裂しまくって自滅すると考えられているが、実際にはなかなかうまくいかないようだ。
生殖細胞に関しては、減数分裂の際にテロメアが修復されるので、生殖細胞自体には寿命がない。
つまり不死である。
というか、生殖細胞のテロメアが修復されないと、短くなったテロメアが子供に受け継がれることになり、子供が短命になってしまう。
バクテリアと寿命
全ての生物には寿命がありそうな気がするが、例えばバクテリア(細菌類)は好適な条件下であれば基本的に不死である。
彼らのDNAはヒトのものと違って環状になっており、末端というものがない。
先にテロメアは染色体の末端にあると説明したが、環状なのでそもそも末端がないのである。
つまり、テロメア自体がないのだ。
アポトーシスとネクローシス
心筋細胞や脳細胞は分裂はあまりしないと先に述べた。
しかしながら、あるところまでいくと必ず死んでしまう。
細胞には、死がプログラムされている。
たとえどんなに健康だったとしても、細胞は必ず死ぬようになっている。
この運命づけられた死をアポトーシスと呼び、細胞死の一種である。
一方で、病気や事故、栄養不足などで偶然的に細胞が死んでしまうのはネクローシスと呼ばれる。
細胞死というと何だかネガティブなイメージだが、アポトーシスは「能動的な死」と呼ばれることがある。
それは、アポトーシスは生物にとって必要な場合があるからだ。
例えば、オタマジャクシがカエルになるとき、尾がなくなるのはご存知だろう。
また、ヒトの発生では、手は最初は水かきのようになっており、発生が進むにつれて水かき部分がなくなって5本の独立した指になる。
実はこれらは全て細胞のアポトーシスによるものである。
尾を作っていた細胞、水かきをつくっていた細胞が死んで消失するのである。
生物が成長する中で、部分的な細胞死が必要な場合があるということだ。
※細胞によっては、自殺を行うものもいます。
このように、生物の死には様々な形態や原因がある。
部分的な死や、個体そのものが死んでしまうもの、病気や事故といったネクローシスの他、テロメアやアポトーシスなど、様々な要因によって寿命を迎えるのである。
まとめ
- 生物に寿命が存在するのは、細胞分裂の回数に限界があるからである
- 細胞の分裂の回数は生物ごとに決まっている
- 生物の寿命や老化に関係しているとされるものの1つに、テロメアがある
- 細胞分裂回数の限界をヘイフリック限界という
- 脳や心筋細胞のように、あまり分裂をしない細胞でもいずれ死を迎える