アブラムシとは? その驚くべき生態とは?
害虫として悪名高いアブラムシだが、今回はそういった負の側面だけではなく、純粋に「アブラムシ」という一種の昆虫について迫る。
彼らは面白い生活環を持ち、そんな彼らのイメージを、単なる害虫で終わらせてしまうのは非常にもったいない。
では、アブラムシについてたっぷり見ていこう。
目次
実はカメムシの仲間
アブラムシとは、カメムシ目 腹吻(ふくふん)亜目 アブラムシ上科に属する昆虫の総称である。
潰したりすると油のような汁を出すのでアブラムシと呼ばれているが、別名を「アリマキ」とも呼び、アリと共生関係を築く種がいることからそう呼ばれている。
※「アブラムシ」はゴキブリの別名でもあるので、アリマキと呼ばれることのほうが実は多い。
温帯を中心に、世界に約4,200種、日本には700種ほどが生息している。
その全種が植物の汁を餌としており、大部分は季節ごとに異なる植物に寄生する。
特定の一種のみに寄生するような種は少ないのだ。
農作物の天敵
アブラムシは、農作物を含め、植物の茎や葉に大集団(コロニー)を形成して寄生し、植物の体内を流れる栄養分を吸い尽くして成長を阻害することから大害虫とされている。
一匹一匹の大きさは数ミリしかなく、数が少ないうちは見落としがちであるので、気付いたら作物が大変なことに・・・という状況がよくある。
例えば、世界中に分布し、200種類以上の植物に寄生できるモモアカアブラムシは、モモやジャガイモなどの重要な農作物に被害を与える。
さらに彼らは、ジャガイモ胴枯れ病という病気を引き起こす菌の媒介者としても知られ、この病気は過去にアイルランドにてジャガイモ飢饉という歴史的大惨事を引き起こしている。
さまざまな生態
4,000種以上が確認されているアブラムシは、当然ながら多様な生態をもつ。
異種と共生するもの、高度な社会性をもつもの、巣のようなものを作るものまでいるので非常に興味深い。
有名なアリとの共生
アブラムシの生態は種によって様々であるが、アリと共生しているイメージを持っている方が多いのではないだろうか。
アブラムシは、1日になんと自分の体重の7倍近くの植物の汁を吸う。
しかも、植物の汁は栄養と水分がたっぷりなので、必然的に余分な糖分や水分を大量に排出することになる。
この糖分が豊富な排泄物を甘露(かんろ)といい、甘露はアリだけではなくハチなどの多くの昆虫の良き栄養分となっている。
そこで一部のアリは、甘露をもらう代わりにアブラムシを外敵から守るという形で共生関係を築いている。
中にはアブラムシを守るために土などで壁を作って守るアリまでいるほどだ。
高度な社会性をもつ種がいる
アブラムシは、全ての種類がアリから守ってもらえるわけではない。
アリに守ってもらえない種・共生関係を築いていない種は、アリやミツバチのような高度な社会性を持ち、兵隊役のアブラムシを作ってコロニーを自衛している。
そうした種のアブラムシは、生まれてきた幼虫の一部が突然変異を起こして兵隊となる。
普通のアブラムシの幼虫には武器がないが、兵隊となった幼虫は突然あごが大きくなり、武器となるハサミを持つように変異するのだ。
そして、一度兵隊になった幼虫はそれ以上成長して成虫になることはなく、一生を幼虫のまま過ごして死ぬ。
一生を働き役として終える働きアリや働きバチと同じだね・・・
虫こぶ
一部のアブラムシは、樹木の葉や茎に"虫こぶ"と呼ばれる部屋のようなものを作り、その中で生活する。
彼らは植物の汁を吸う際に、植物を急成長させる物質を注入する。
すると、その部分だけが肥大化してこぶのように膨れたり、葉が異様にねじれて細長い部屋のようになる。
こうしてできたこぶの内側の壁面から汁を吸い、中で一生を過ごすのである。
虫こぶのためには強硬手段も辞さないやつもいる。
例えば、日本産のヤングニセワタムシというアブラムシは、自力で虫こぶを作ることができない。
そのため、他のアブラムシが作った虫こぶに侵入し、持ち主を殺して乗っ取るのだ。
アブラムシにも色々いるんだね・・・
驚異の繁殖力
アブラムシはオスと交尾することなしに、メスのみで増えることができる。
これを単為生殖という。
幼虫は母親の体内の卵の中で孵化し、幼虫の姿で直接母親の体から出てくる。
これを卵胎生という。
アブラムシは繁殖力が非常に強く、母親は1日に5~10匹ほどの幼虫を産む。
しかも、生まれるのは基本的に全てメスで、4~7日という早さで成虫になる。
そしてこの成虫たちがまた5~10匹ほどの幼虫を産んで・・・という繰り返しである。
アブラムシが厄介な害虫とされるのはまさにこの凄まじい繁殖力のためであり、あっという間に増殖して植物の養分を吸いつくす。
アブラムシの生活環
アブラムシの生活環(一生)を簡単に見てみよう。
まず、アブラムシは卵のまま越冬し、春になって気温が上がってくると孵化する。
このとき孵化する幼虫は全てメスで、しかも翅(はね)を持たない。
幼虫は数回脱皮を繰り返して成虫になると、単為生殖で増えていく。
つまり、一つのコロニーを形成している無数のアブラムシは全て最初の一匹のクローンなのである。
このようにして増えていき、餌である植物の汁を吸いつくすと、今度は有翅の(はねがある)メスを産むようになる。
そして有翅メスは成長すると別の植物へ飛んでいき、そこで再び翅のないメスを産むのである。
夏も終わり、秋頃になると、今度は有翅のオスを産むようになる。
メスは有翅のオスと有性生殖をし、またメスを産んで・・・ということを一生繰り返していく。
つまり、アブラムシは餌があって都合の良い環境のときには単為生殖によってクローンを量産し、餌が少なくなると有翅型を生み出して別の植物に乗り換え、さらに秋冬になって環境が悪くなってくるとオスを生み出して有性生殖をし、遺伝子の多様性を確保して適応・越冬しようとする。
こんなに効率的な昆虫が他にいるだろうか。
基本的に防御力は"ゼロ"
アリに守ってもらったり、高度な社会性を持って兵隊役がいたりするアブラムシだが、基本的には外敵から身を守るような武器などを持たないものが多い。
多くのアブラムシは、フェロモンを使って外敵の存在を仲間に伝え、逃げるしかない。
※もちろん、撃退手段や捕食者を道連れにする手段などを持っているものが一部にいます。
アブラムシがコロニーを作って高密度に密集しているのは、フェロモンをすぐに仲間に届けるためだと考えられているよ!
天敵は多数
外敵に対して対抗手段をほとんど持たないため、アブラムシには天敵が多くいる。
クサカゲロウやヒラタアブ、体に卵を産み付けてくる寄生性のハチなどがそうである。
中でも最も有名な敵はテントウムシ類であろう。
テントウムシは、成虫のみならず幼虫までアブラムシを餌としており、わざわざアブラムシがいる植物を狙って卵を産み付ける。
卵は1週間ほどで孵化し、幼虫は成虫になるまで1匹あたり600匹ものアブラムシを捕食するという。
アブラムシは天敵が多いけど、繁殖力が並外れてるからそう簡単に全滅しないよ