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サケはなぜ海と川を行き来するの? どうやって生まれた川に戻れるの?

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川で生まれ、海へ行き、そしてまた同じ川に戻ってくる鮭。

無限に広い大海原に旅立つのも、そして故郷の川に戻るのも、全てが命がけ。

どちらか一方に棲みつくのはだめなのか?って思ってしまうけれど・・・。

今回は、そんなサケに関するうんちくを綴ろう。

 

目次

 

サケの一生

一般的には、サケの卵がかえるのは

春に卵がかえって、そこから川を下って海に行くわけだけど、どうやら全てのサケがただちに海に下るわけではないらしい。

 

生まれた川などで1~2年ほど淡水で生活を送ってから海へ下るものもいれば、生まれてすぐに海を目指すサケもいるということだ。

 

海に到着したサケはそこから海洋生活を始める。

この海洋生活の期間はサケの種類によって異なり、例えばサクラマス1~2年であるのに対し、シロサケ2年以上海で生活をするという。

 

海で生活をしながら小魚やプランクトンを食べ、体を大きくしていくのだ。

 

そして数年の海洋生活の中で産卵期に突入すると、自分が生まれた川を目指し、遡上していく。

このサケの母川回帰能力は高く、川の支流まで見分けることができる。 

母川まで遡上するとオスとメスがペアになり、子孫を残す。

 

 

そして、一度でも放卵、放精したサケはそのまま息絶えてしまう

一般的には産卵の季節は地方や水温にもよるが秋~年明けになる

 

※サケは1回の産卵で力尽きてしまうが、ニジマスのように複数回産卵できるものもいる。

 

なぜ淡水と海水を行き来するのか?

サケが川で産卵することを考えると、サケは本来は海の魚というよりも川の魚であると考えることができる。

 

そんなサケがわざわざ危険を冒してまで海に行く理由は海洋における豊富な餌が目的である

サケは冷水の魚であり、冷水の淡水域よりも、海のほうがずっと餌が豊富にあるのだ

 

つまり、サケは成長期をより餌の多い海で過ごし、そこで得たエネルギーを産卵に回すという生存戦略をはかっているのである。

 

どうやって自分が生まれた川を見分け、戻れるのか?

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一度数年大海原に出て、そこから自分の故郷の川の位置を特定して戻るのは至難の業だ。

そこで提唱された一つの考えが、サケが嗅覚を用いて母川を記憶し、特定しているというものである。

 

川の匂いってどういう匂いがするんだろうね笑

 

なぜ嗅覚だと言えるのか?

実は最近の研究で、河川水中に溶けているアミノ酸の濃度と組成が河川ごとに異なるということが明らかになったのである。

さらに、それらの違いをサケが嗅ぎ分け、選択できることも明らかになってきたのだ。

 

ただし、流域環境によって異なるアミノ酸の濃度と組成を作り出すものの「正体」は現在分かっていない。

 

逆にこれを知ることができれば、どのように河川を保全すれば、サケに適した河川環境を作ることができるのかが分かるようになるのだ。

 

川にあえて帰らないサケがいる!?

北海道の支笏湖(しこつこ)に生息するヒメマスを海のサケのモデルとし、母川回帰率を調べたところ83%だったという。

また、産卵期の前期と後期によって性差が見られたという。

 

まず、産卵期が始まってすぐ(前半)に回帰するオスは正確に母川に回帰する。

しかし、産卵期が後半になると回帰率が半減するという。

その一方でメスの中には1~2割回帰すらしないものがいる

 

母川に回帰しない個体は一体何をしているのだろうか。

実は、サケの中には正確に母川に回帰して産卵するものと、一部に母川に回帰しなくても別の川で産卵できるものがいる

 

そして、あえて回帰しない個体たちは別の川に回帰することで種の生息域を広げたり、遺伝的多様性の確保に貢献しているのである。

こういうサケたちのおかげで、色々な川にサケが生息しているのである。

 

サケと環境保全

あえて母川に回帰しないサケがいると説明したが、母川へ回帰したくても回帰できないサケがいたらどうだろうか。

 

というのも、近年人間が作り出した環境ホルモン農薬が河川に流入することにより、サケの嗅覚機能に悪影響を及ぼすことが分かったのだ。

 

特に農薬は稚魚の嗅覚機能を低下させ、稚魚が母川を記憶(記銘)することができなくなってしまう。

 

また、汚染されたサケがそのまま遡上してしまえば、遡上先の湖や河川が汚染されることにもなる

とあるアラスカの湖ではサケによってPCBが運搬され、湖の汚染が確認されている。

 

 

サケは海から川へ遡上することによって、海の塩や栄養を川へ運搬する物質循環の重要な担い手である。

サケが産卵後死に、その死体から様々な栄養が流出し、豊かな生態系を作り出すのである。

 

我々は地球環境保全のためにも、サケのような生物を指標にしながら環境問題に対処していかなければならないね。

 

環境ホルモン・・・外因性内分泌撹乱物質とも呼ばれ、生物が体内で生成されるホルモンに悪影響を与える

※PCB・・・ポリ塩化ビフェニルの略。熱に強く、電気を通しにくい、化学的に安定という特徴から電気機器などに幅広く使用された。しかし、生体への悪影響が指摘され、製造が禁止になった。

 

まとめ

  • サケは川で生まれ、海で大きくなり、最終的に生まれの川に帰ってくる。

 

  • サケが海に行く理由は、豊富な餌が海にあるからである。

 

  • サケは嗅覚を使って自分が生まれた川を探し出す。

 

  • 全てのサケが生まれの川に回帰するわけではなく、一部は違う川に回帰する。

 

  • 人間が作り出した農薬などはサケの嗅覚機能に悪影響を与える

 

参考文献

東京大学海洋研究所/編 『海の環境100の危機』東京書籍

 

サケの一生

サーモンミュージアム(鮭のバーチャル博物館)|マルハニチロ株式会社

 

環境省HP 

環境省_ポリ塩化ビフェニル(PCB)早期処理情報サイト_PCBとは?なぜ処分が必要か?