生物多様性とは何か?
地球上に生命が誕生したのは今から約38億年前。
そこから現在に至るまで、気の遠くなるような長い時間をかけて、生命は様々な種に分かれて進化し、多様な生態系を作り出してきた。
今回は、昨今かなり耳にするようになったであろう生物多様性について書いていく。
目次
生物多様性とは?
生物多様性とは、読んで字の如く"生物が多種多様であること"である。
だが、これはただ単に生物が沢山いればよいというわけではない。
ここでの「多様性」という言葉にはいくつかの意味が含まれているのだ。
3つの"多様性"から構成
生物多様性には全部で3つの「多様性」の意味を含む。
その3つとは「種の多様性」、「遺伝的多様性」、「生態系多様性」である。
そしてこれら3つの多様性が相互に影響し合い、全ての生物の多様性が維持されている。
種の多様性
種の多様性とは、様々な種の生物が混在していることである。
例えば、ある森の中を想像してほしい。
その森の中には様々な木や草などの植物が茂り、昆虫やそれを食べる鳥類、小型の哺乳類、そして場合によってはデカい熊やイノシシに遭遇するかもしれない。
1つの地域に1種の生物ではなく、1つの地域に植物から動物まで様々な生物が混在していることが種の多様性である。
遺伝的多様性
遺伝的多様性とは、たとえ同種の生物であっても、遺伝子に差異(バリエーション)があることである。
例えばある病原菌Aにとても弱い生物がいたとして、それらが全てクローンだったらどうなるだろうか。
クローンなので遺伝子は全く同じである。
当然、病原菌Aを原因とする病気が流行すれば、たちまちのうちにその生物はクローンもろとも死滅してしまうだろう。
しかし、ここで別の遺伝子をもった生物がいると・・・
このように、外部から何らかの影響を受けたり、変化があったときに、同じ種でも異なる遺伝子を持っていれば、全滅を避けたり、ある程度の対応ができる。
遺伝的多様性が確保されることで、結果的に種の多様性の確保に繋がるのである。
生態系多様性
生態系多様性とは、様々な生態系が存在することである。
※写真は奥入瀬渓流
例えば陸地には森林や草原、砂漠など、様々な生態系があったりする。
さらに生態系は水の中にだって存在する。
様々な生態系に様々な生物が集まり、時には異なる生態系にいた同種の生物同士が出会い、子孫を残す。
すると、まだこれまでに考えられなかったような遺伝子の組み合わせが生まれることになる。
生態系が多様であることが、遺伝的多様性に一役買い、そして種の多様性の確保に繋がっていく。
生物が多様になる過程
まず、全く同一の遺伝子を持ったネズミが複数匹、ある生態系の中(森林)にいたとする。
※写真はハリネズミですが、今回はただの何の特徴もないネズミだとします笑
自然界で生活していく中で、紫外線などによって、一部に様々な突然変異が起こる。
すると、今までは同一だった遺伝子にバリエーションが生まれる。
※色は遺伝子のパターンを表してます。
遺伝子は多様になったが、自然界で暮らす以上様々な環境変動にさらされる。
例えば寒さにやられたり、病原菌に侵されたり、災害に遭ったりなどである。
すると、その変動に適応できなかった遺伝子の個体は死滅してしまう。
無事環境に適応し、生き残ったものたちは、それぞれの遺伝子を持った個体ごとに集団を作ったり、外敵などに追いやられたりして移動し、分断が起こる。
こうして完全に分断されてしまった種は、もはや混じり合うことはなく、長い年月をかけて同種から異種(別種)になっていく。
分断され別の集団となっても、上記のことが繰り返され、多様な生物が生まれていく。
青で示した遺伝子をもったネズミは草原に生息するようになるかもしれないし、ピンクで示したものは人間の住宅街に侵入するかもしれない。
多様になった生物は自分達にとって住み心地の良い場所、都合のよい場所に移動していく。
多様性と攪乱
自然界では様々な変動などにさらされるが、生態系を破壊し、生態系に大きな影響を与える変化を攪乱(かくらん)という。
攪乱の例は台風、火山の噴火、河川氾濫などの主に災害である。
災害と聞くとマイナスなイメージだが、むしろ、適度な攪乱は生態系を多様にする。
例えば、サンゴ礁は台風を受け、一部が破壊されたり、風で水がかき混ぜられることによって生育する種が豊富になることが知られている。
サンゴ礁は、台風が全くないと逆に大打撃を受けるよ!
もちろん、あまりにも大規模すぎる撹乱や、短期間に攪乱が繰り返された場合では生態系が根こそぎ破壊され、種の絶滅をもたらしてしまうことがある。
一過性で、かつ中程度の攪乱は生物の多様性に大きく寄与するのである。
人為撹乱
人為撹乱は、人による攪乱である。
例えば過度な森林の伐採や乱獲、過放牧などである。
通常攪乱は台風などの一過性のものであるため、短期間に繰り返されることはあまりない。
しかし、人為撹乱は短期間に繰り返され、その攪乱の規模も過度なものだったりすることで問題なることが多い。
現在の環境問題は、いき過ぎた人為撹乱が原因になっているところもあるね。
人為撹乱と里山
人間による攪乱は実は悪いばかりではない。
人為撹乱が生物多様性に貢献する例もあるのだ。
その例が里山である。
こうした田園風景は日本人にとってなじみのあるものだ。
里山は、木ばかりだった山を切り拓き、水田や畑などを作ったものである。
もちろん、里山のための開拓は、スタートは森林を伐採するところから始まるので、良くない人為撹乱では?と思いがちだ。
しかし、本来水がなかった場所に水を引き、水棲の生態系を作ったり、雑木林ができたり、雑草を抜いてみたり、そして何よりも人間がその生態系を適度に維持してくれる。
こうして本来は森林しかなかったところに、思いがけない生態系や生物群が現れ、生物多様性が高くなるのである。
度を超していなければ、全ての人為撹乱が悪いというわけではないんだね。
まとめ
- 生物多様性とは、ただ単に生物が沢山いるという意味ではなく、「種が多様」、「遺伝子が多様」、「生態系が多様」という意味である
- 生物は突然変異や種の分断を始め、自然界で様々なものにさらされて多様になっていく
- 生態系を破壊したり、影響を与える災害などを特に攪乱と呼び、適度な攪乱はむしろ生態系を豊かにする