クマムシとは? 最強の生き物? 意外に弱点もある?
「最強の生物」として、テレビなどのメディアでもしばしば取り上げられるようになったクマムシ。
確かに強力なシステムをもつ生物と言われるクマムシだが、みなさんはこの生き物についてどれほどご存知だろうか。
今回は、そんなクマムシについて語ろう。
目次
クマムシとは?
クマムシは緩歩動物門に分類されている動物の総称である。
名前に「ムシ」ってついているけれど、昆虫ではない。
そして昆虫でもなければ節足動物でもない。
クマムシって何?って聞かれたら、とりあえず動物と答えれば大丈夫。
大きさは最小のもので0.15ミリ、最大種でも1.7ミリ。
つまり種類によってはギリギリ肉眼で見えるレベル・・・っていう感じである。
体はちょっとずんぐりむっくりしたような体つきをしている。
手には爪があって、足が8本あって、なんだかイモムシみたいな・・・
どこにいるの?捕まえられる?
クマムシは世界中に生息しており、1,000種以上が確認されている。
あらゆる環境に適応し、深海や温泉に棲むものまでいるが、大半の種が土の中にいる。
一口に"クマムシ"といっても、様々な生態があるのだ。
あと、クマムシは体がとても小さいため、採集が困難に見えるが、実は採集は比較的容易なのだそうだ。
採集方法としては、ツルグレン装置という装置を使い、クマクシが生息してそうな苔や土をとってきて、電灯で照らして弱い熱を加えたり、水に浸したりして這い出させる。
クマムシは日光を避けようとする習性があるからだ。
乾燥クマムシ
一部のクマムシは周囲の環境が乾燥してきたり、条件が悪くなってくると、乾燥クマムシになることができる。
具体的に何をするのかというと、体内でトレハロースという固体の糖を作り、それを水と置換することで体内の水分含有率を極限まで減らせるのだ。
これにより、普段は体内にある85%の水分量を0.05%にまで減らすことが可能だ。
カッチカチの鰹節の塊でも水分が15%程度含まれていることを考えていると、とんでもなく乾燥していることが分かる。
乾燥クマムシ状態では、クマムシは呼吸をしておらず、血液の循環も止まっている。
つまり、代謝が完全に止まっている状態である。
これを言い換えると、生きたまま時間が止まっているような状態なのだ。
この状態を専門用語で乾眠(クリプトビオシス)と呼ぶ。
自然条件下におけるクマムシは、この乾眠と通常の状態をうまく繰り返すことによって、自身の身を守っているのである。
ちなみに、多くの生物は代謝が止まってしまえばたちまちのうちに死んでしまうが、乾燥クマムシは水を一滴たらしてやれば復活する。
乾燥クマムシの強さと仕組み
乾眠状態のクマムシは非常に強い。
どういうことかというと、あらゆる環境条件に対して、並外れた耐性を持つようになる。
例えば、
- 150度の高温
- 人間の致死量の1000倍以上の放射線※
- 電子レンジでチンしてもOK
- 宇宙空間や真空下で1週間以上の生存
- マイナス270度の超低温
※クマムシは実は通常状態でも放射線に耐性があるとされ、むしろ乾眠状態よりも通常状態のほうが放射線耐性傾向があるとされています。
などなど、頭おかしい(褒め言葉)。
なぜこのような耐性を持てたり、水一滴で復活できたりするのだろうか。
それは乾眠状態が、体を構成する高分子たちが破壊されずに、生存している状況と同じ位置関係で固定された状態のことであるからだ。
乾眠状態のクマムシは、生きている状態で固定されて止まっているため、外の変化の影響を受けにくくなるのである。
これが、「生きたまま時間が止まっている状態」と言われる理由で、体を構成している分子を固定しているのが先ほど述べたトレハロースなのである。
そして水一滴で元に戻ることができるのは、水によって分子が自由に動ける状態になり、さらに水よって溶けたトレハロースがそのエネルギー源になるからである。
弱点はあるのか?
上記の乾眠状態を見ると、なんだかクマムシが超生物に見える。
けれども、こんな超生物でも地球を支配しているわけじゃないし、私たちの生活にあまり大きな影響を与えているとも思えない。
実はクマムシはいくつかの弱点がある。
乾眠の"落とし穴"
クマムシが行う乾眠は、非常に強力な防御手段であることは間違いないが、弱点がある。
まず先ほど述べたように、乾眠状態から復活できるのは、生きた状態のときと同じ位置関係で分子が固定されるからであった。
だがこれは逆を言うと、位置関係が乱されたり、高分子が変質するとクマムシは復活できなくなることを意味する。
ここで、興味深い実験がある。
乾眠状態のクマムシを、酸素が入ったボトルと、真空のボトルに入れて長期間放置し、再度好適な条件に戻して蘇生率に違いがあるか調べるという内容の実験である。
この実験の結果は、真空中のクマムシの蘇生率は高かったものの、酸素入りの容器中の蘇生率は極めて低かったという。
このような結果になった原因は、長期間の乾眠中に分子が酸化して変質してしまったためだと考えられている。
確かに乾眠状態のクマムシは呼吸をしないので酸素は必要ない。
しかし不要を通り越してかえって毒になってしまうことがあるのだ。
そもそも寿命が短い
クマムシの寿命はだいたい2か月くらいで、稀に1年以上生きる個体もいるのだとか。
もちろん、乾眠状態であれば年単位で生きられるが、あくまで"乾眠状態を除いた活動期間"はせいぜい2か月。
過酷な環境のほうが長く生きられるっていうのもなあ・・・
過酷な環境にも必ずしも耐えられるわけではない
例えば上記のようにクマムシが乾眠状態にあるときに、真空だとか放射線に実験的にさらされたとして、乾眠状態から戻ったクマムシがそれによってどのような影響を受け、その後どのくらい正常に活動して生存したかまではあまり研究がされていない。
乾眠から覚めてすぐは元気だったけれど次の日には死んでしまったというケースはどうなるのか、そもそも放射線を浴びてその後長生きできるのか、などである。
さらに、過酷な環境に耐えられると言っても、踏み潰したりしても簡単に死んでしまう。
急激な乾燥や脱水には耐えられない
クマムシが乾眠するには周囲の環境が徐々に乾燥する必要がある。
急激に乾燥してしまうとクマムシはただ脱水するだけで死んでしまう。
また、海や池などの水に棲むクマムシ類は乾燥に弱く、そもそも乾眠自体ができない。
最強無敵の生物を探すのはなかなか難しいね・・・!