生きるものに魅せられて

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飼育、生育密度によって生物の体は変わる?

例えば水槽にたくさんの魚を入れて高密度に飼育した経験がある人はいるだろう。

ある生物集団が高密度で生活している状況は自然界でもありうる。

そして驚くべきことに、高密度で生育すると同じ種であるのに全く別の姿に変異してしまう生物もいる。

 

目次

 

 

生物は無限には増えない

理論上では、生物は「外敵がいない」、「餌が豊富」、「広い空間」という環境に置かれたとき、個体数は時間の経過とともに指数関数的に無限に増えていく

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しかし現実は厳しく、生物はある程度までは繁殖で増えるが、食料や生活空間の不足環境の悪化(特に衛生面)により、無限に数を増すわけではない

 

これは森の中であれ、池の中であれ、水槽の中であれ、それぞれの環境にはそれに応じた収容力があり、それを超えて生物は増えることができないことを意味する。

 

今述べた収容力とは正式には環境収容力と言い、その環境自体の広さと、存在する餌の量によってだいたい決まる

 

この水槽なら何匹まで飼える?っていうのも収容力だよね。水槽であれば、濾過能力を強化したり、単純に水槽サイズをアップすることでより多くの魚を飼育できる(収容力が上がる)ね。

 

高密度に生物が置かれると・・・

アクアリウムで魚などの過密飼育をしたことがある方なら実感があるだろう。

高密度に生物が置かれると、成長などに阻害が見られることがある。

 

  • 出生率の低下
  • 死亡率の増加
  • 成長の遅延
  • 奇形の発生
  • 病気の蔓延

 

などである。

 

人間が管理し、飼育しようとする場合には高密度での飼育や生育が起こりやすいのだが、自然界でもこのような状況はありえる。

ある生物が大量発生したときなどがそうである。

 

生物は高密度で飼育したり、自然界で高密度で集団生活していたりすると、姿や特性に若干の変異が見られることがある。

 

そして生物によってはその変異が顕著にあらわれるものがおり、高密度で生育すると元の姿とは全然違った姿や特性を持つようになる生物がいる

 

バッタの変異

高密度になると見た目や特性が変異してしまう生物の好例がバッタである。

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表にまとめてみたが、バッタは生育密度によって、自らの体色から卵に至るまで、様々な変異が起こるのである。

ではなぜこのように変異してしまうのか。

 

変異の理由は?

高密度で生育するバッタたちにとって一番の問題はである。

バッタは草が主食だが、さすがに何百匹もいたらすぐに周囲の草を食べつくしてしまう。

 

ある場所の餌を食いつくしてはまた別の餌場に頻繁に移動(何十kmも移動することがある)するので、高密度で生育するバッタは移動能力が非常に高い

 

だから飛んで移動するための翅は発達して長くなるし、あまり使わない後ろの肢は軽量化のためもあって小さくなる。

 

ところで、軽量化を考えると高密度下のバッタのほうが脂肪含有量が多い傾向にあるのはちょっと不思議に思う方もいるだろう。

これは長距離移動に備え、体にエネルギーを蓄えなければならないからである。

 

今度は卵の数と大きさを考えてみよう。

低密度生育のバッタはそもそも食糧などに余裕があり、1つ1つの卵を小さくして沢山産むことができる

 

一方で高密度のほうは常に餌不足に悩まされるため卵を多く産むことができない

その代り、一つ一つの卵にあるだけの栄養をもたせて大きな卵を生む

 

高密度の中で生まれれば、生後すぐに餌不足に悩まされる可能性があるだろうし、卵からたっぷり栄養を受け継いでおいたほうがいいね。

 

植物の変異

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密度による変異は、動物だけではなく植物にも見られる

同じ面積の畑に隙間なく種をまいた場合と、まばらに種をまいた場合などで変異が観察されることがある。

 

植物の場合はイメージしやすいだろう。

まばらに種をまくとその分植物は大きくなって沢山の実をつける

一方で高い密度で種をまくと植物1つ1つは小さくなり、なる実の大きさも小さくなる

 

しかしここで面白いことがある。

植物の場合、どの密度で生育しようが、同じ面積あたりで収穫できる量は一定になるのである(最終収量一定の法則)。

 

まとめ

  • 生物は餌や生活空間、環境などによって制限を受けるため、無限に生殖して増えるわけではない
  • 生物の中には生育密度によって体つきなどが大きく変異するものがいる
  • 中でもバッタは顕著で体色から卵の数まで大きく変異する
  • 植物においても密度による変異が見られるが、同じ面積で収穫できる量は密度に関係なく一定になる