細胞膜はどのようにして物質の輸送をしているのか?
生物の細胞が生きていくためには、その内部でエネルギーを作るだけではなく、外部から栄養を取り込んだり、エネルギーを作るための材料を取り込む必要がある。
そこで細胞膜は、細胞を外部と仕切るための単なる仕切りであるだけではなく、外部との物質のやりとりをコントロールする機能を持っている。
少々マニアックに感じられるかもしれないが、今回はそんな細胞膜がどのようにして外部とのやりとりを行なっているのかを見てみよう。
↓今回の記事は細胞膜についてある程度の知識があることを前提に書いていますので、下記もご参考ください。
目次
細胞膜とタンパク質
細胞は細胞膜という膜で包まれており、細胞膜はリン酸と脂質が結合したリン脂質によってできている。
脂質が混ざっていることにより、細胞膜は水を通しにくい構造(疎水性)となっているのだ。
しかし、細胞に運ばれてくる栄養分を始めとする数々の物質は、水に溶けた状態で運ばれてくる。
これが何を意味するのかというと、細胞膜は運ばれてきた物質を何でもかんでも中に通すわけではないということだ。
細胞は、膜を通して中に入れるべき物質をきちんと選択しているのである。
このように、細胞膜が物質を選択的に通過させる性質を、選択的透過性という。
では、具体的に細胞膜のどこで輸送すべき物質が選択されているのだろうか。
実は、細胞膜中のリン脂質の中にはタンパク質が存在しており、このタンパク質が門のようになって特定の物質のみを選択的に通しているのだ。
こうしたタンパク質は、「膜にあるタンパク質」ということで、膜タンパク質と呼ばれる。
受動輸送と能動輸送
膜タンパク質はどのようにして物質を輸送するのだろうか。
具体的な輸送の方法には受動輸送と能動輸送がある。
まず受動輸送とは、拡散など、物質の濃度差を利用して物質を移動させる輸送である。
ん?拡散って?
拡散とは、あらゆる物質が持つ性質で、物質が均質性を保とうとする性質のことである。
例えば、物質は高濃度のものと低濃度のものが隣り合ったり近づくと、それらは均質になろうとして、どちらか一方が片方へ移動するという現象が起こる。
そして"どちらか一方へ"という方向は決まっており、物質は高濃度から低濃度の部分へ向けて移動しようとする。
こうやって濃いものが薄いもののほうに移動して混ざったりして、濃度を均一にしようとするんだよね!
物質が自然に移動しようとする力を利用して輸送を行うので、受動輸送ではエネルギーを必要とすることなく輸送ができるという特徴がある。
一方で、能動輸送は、拡散などに逆らった方向へ物質を輸送させる方法である。
そのため、能動輸送にはエネルギーが必要となる。
そしてこの輸送に利用する「エネルギー」とは、ATPのことをいう。
膜タンパク質の種類
細胞に存在している膜タンパク質にはいくつかの種類があり、受動輸送を担当するもの・能動輸送を担当するものなど、役割が分かれている。
ここでは、いくつかの膜タンパク質について紹介する
チャネル
チャネルとは、高濃度から低濃度へ物質を移動させる膜タンパク質である。
つまり、受動輸送を行っている。
チャネルが通す物質は主にイオンなど(水に溶けている物質)である。
さらに、チャネルの中にも種類があり、例えばイオンチャネルなどがある。
イオンチャネルは特定のイオンのみを輸送する膜タンパク質である。
例えば、ナトリウムイオンチャネルはナトリウムイオンのみを輸送し、カリウムイオンチャネルはカリウムのみを輸送できるよ!
キャリア
キャリアは、別名で輸送体とも呼ばれ、グルコースやアミノ酸を受動輸送している。
チャネルと比較すると、大きな物質の輸送を担当している。
後述のポンプもそうなのだが、この膜タンパク質自体には穴などが空いておらず、自身を変形させることで物質が通るための通路を作る。
アクアポリン
アクアポリンは、水チャネルとも呼ばれ、受動輸送を行っている。
"アクア"という名前からも想像できると思うが、主に水を専門的に輸送している。
先に述べたように、細胞膜には疎水性の部分があるため、水はこのアクアポリンを介して細胞内へ入っていくことになる。
輸送方法としては、水は濃度が低い方から高い方へ移動する性質があり、アクアポリンはこれを利用して受動輸送を行っている。
細胞のほとんどは水が占めるため、このアクアポリンを介して水のやりとりをすることは非常に重要である。
例えば、カエルの卵にはアクアポリンがないんだよ!水を通すためのアクアポリンがないわけだから、水が中に浸透してきて卵が膨張してしまう心配がなくて、だからこそ水中に卵を産めるんだよね。
ポンプ
ポンプは、能動輸送を担当する膜タンパク質である。
例えば、ナトリウムポンプはナトリウムイオンを細胞外へ輸送し、カリウムポンプはカリウムイオンを細胞内に輸送する。
ナトリウムポンプやカリウムポンプの働きは、特に人間の神経細胞にて非常に重要な役割を果たしており、興奮の伝導などに大きく関与している。
ところで、ポンプは能動輸送を行うため、エネルギー(ATP)を必要とする。
ポンプはATPを分解するための酵素を持っており、細胞内で作られたATPを自ら分解し、そのエネルギーで輸送をおこなっている。
エンドサイトーシスとエキソサイトーシス
ここまでで、細胞は膜タンパク質を介して選択的に物質を取り込んだり、排出したりしていることを学習してきた。
しかしながら、物質の中にはあまりに大きく、膜タンパク質では対応できないものもある。
そこで、膜タンパク質では対応できない物質の場合は、細胞膜そのものが部分的に変形して物質を中に直接取り込むという現象が起こる。
これをエンドサイトーシスと呼ぶ。
エンドサイトーシスは別名で食作用と呼び、物質を細胞膜で取り囲み、中に取り込む。
白血球のマクロファージなどが行う食作用が有名である。
一方で、エンドサイトーシスとは逆に、物質を細胞外へ分泌したりすることをエキソサイトーシスと呼ぶ。
エキソサイトーシスは別名で開口分泌と呼び、ゴルジ体がゴルジ小胞を作り、タンパク質が細胞外へ出ていくプロセスなどが例である。
ホルモンの分泌なんかもエキソサイトーシスの例だよ!
↓白血球の食作用について気になる方は以下の免疫の記事を参考にどうぞ
↓ゴルジ体って何ぞや!という方は下記の記事も参考にどうぞ
まとめ
- 細胞は、細胞膜にある膜タンパク質を介して外との物質のやりとりをしている
- 膜タンパク質は、例えばナトリウムイオンチャネルはナトリウムイオンしか通せないように、特定のものしか通すことができない
- 膜タンパク質が物質を輸送する方法には受動輸送と能動輸送がある
- 受動輸送は物質が本来持つ性質を利用した輸送であり、エネルギーを使わない
- 能動輸送は物質の性質に逆らって輸送を行うため、エネルギーが必要となる
- 膜タンパク質にはチャネルやポンプなど、様々な種類があり、それらが常に働いて細胞を正常に維持している
- 物質によっては、膜タンパク質を介してではなく、細胞膜によって直接取り込まれたり、細胞膜から直接出ていくものがある