発生とは何か? 受精はどのようなプロセスで行われる?
精子と卵が合体して受精卵になることはほとんどの人が知っていると思うが、その現象を説明するとなると少々難しいかもしれない。
今回は、発生というものは何かということを超簡単に触れ、その第一段階でもある受精がどのように行われ、成立するのかを見ていこう。
目次
受精と発生
受精と発生、それぞれどのような意味だろうか。
別の記事でも解説しているが、配偶子である精子と卵が接合することを特に"受精"という。
それに対し発生とは、受精から実際に個体が形成されるまでのプロセスをいう。
受精卵が成長していって、赤ちゃんの体ができるまでの過程を発生って言うんだね
受精の過程
Julian HackerによるPixabayからの画像
発生は、受精から個体形成までの一連の流れである。
今回はその最初の段階である受精について考え、ウニをモデルに見ていこう。
※ウニは人間と発生初期のプロセスが似ていることから、よく発生観察などのモデルにされています。
↓専門用語等の簡単な解説は以下の記事もご参照ください
先体反応
体内に入った精子は1つの卵に向かって、おびただしいほどの数が向かっていく。
卵の最も外側に到達した精子たちは、まずこの粘膜のようなゼリー層を何とかしなければならない。
そこで精子は先体からタンパク質を分解するための酵素を分泌し、ゼリー層を分解しながらさらに進んで行く。
このように、ゼリー層の中の物質と精子が反応することを先体反応と言うが、これはゼリー層の中にある特別な物質を精子が認識できるからこそ起こる反応である。
精子は卵に向かうまでに寄り道をせずに、ゼリー層の中の物質を頼りに一直線に進んで行く。
しかし、一気に大量の精子に入られても困るので、ゼリー層は分解酵素を使わないと分解できないようになっている。
つまり、簡単には先にある本体まで進めないようになっているのである。
ゼリー層を突破すると、精子の先体から突起のようなものが生じてくる。
その突起の先端にはバインディンという名前のタンパク質が発現しており、このバインディンと卵膜にある受容体がうまく結合することで、精子と卵が融合する。
精子のバインディンと卵の受容体は鍵と鍵穴のようなものだ。
これら2つがぴったりと合わないと、精子と卵が融合できないからだ。
例えば、精子が別種の生物のものだった場合、当然受容体と合わないため、結合が出来ない。
異なる生物同士では子供を作ることができない理由の1つである。
※卵膜=卵黄膜+細胞膜です。
表層反応
先体反応の次には表層反応という反応が起こる。
卵が精子を受け入れると、卵の表面が盛り上がり(受精丘の形成)、本格的に精子との融合が始まる。
すると、精子の中に入っている精核が卵の中に入っていく。
同時に、卵の中にある表層粒が崩壊して、中にある酵素を卵膜の中に分泌する。
この酵素は分解酵素であり、卵膜を作っている卵黄膜と細胞膜の接着を分解する働きをもつ。
卵黄膜が細胞膜から完全に分離すると、卵黄膜は受精膜になる。
そして、先ほど卵の中に入った精核と、卵核が合体して受精が完了する。
受精膜ができて、核同士が合体して、全て終えて受精の完了なんだね!
多精拒否
受精は1つの卵内に1つの精子が入ることで正常に完了する。
もし大量に精子が入ってしまうと、人間であれば流産になってしまったりするのだ。
そのため、卵には多くの精子が侵入するのを防ぐ仕組みがある。
実は、精子が先体反応で卵と融合した瞬間、卵の外側にあるナトリウムイオンが一緒に、しかも大量に卵の中に入ってきているのである。
ナトリウムイオンは陽イオンなので、ナトリウムイオンが入ると卵の中は電気的に+に転じ、卵は電流を帯びる。
※図はあくまでイメージです。実際の電流は一番最初に融合できた精子を始点に波状に卵の表面を伝わっていきます。
電流は卵全体に波のように流れ、これを受精波という。
受精波は、精子が融合して1秒以内に流れる瞬間的な電流である。
この受精波により、卵に到達できていない他の精子の運動を、一時的に阻害する。
しかし、これはあくまで一時的な話で、しばらくすると他の精子はまた動き出してしまう。
そこで、多精拒否は次の段階に進む。
先ほどの表層反応で、受精膜ができることを述べた。
実は受精膜は、他の精子に対する物理的なバリアになる。
受精波によって一時的に動きを阻害されている間に受精膜が張られ、以後他の精子は卵に一切侵入できなくなる。
受精波と受精膜の二段構えで多精拒否が行われているんだね!
コラム:受精とミトコンドリア
ミトコンドリア・イブという言葉を聞いたことがあるだろうか。
これは、全ての現生人類の母系の家系を辿ると、約16万年前のアフリカにすんでいた一人の女性に行き着くという説だ。
説の真偽はともかく、なぜ母系なのだろうか。
その理由には、子供を生むのが母親だからという単純な理由ではなく、全ての細胞内に入っているミトコンドリアという器官が大きく関わっている。
ここで、今回述べた受精のプロセスを思い出してほしい。
図では省略してきたが、受精卵の中にもミトコンドリアは当然入っている。
しかし、受精卵の中には母親(卵)のミトコンドリアしか入っていない。
どういうことかというと、受精は精子と卵の核が合体して完了するが、精子が卵の表面に結合したとき、卵の中に送り込まれるのは精子の核であり、精子に入っているミトコンドリアは卵に送り込まれないのだ。
つまり、ミトコンドリアは母親由来のものしか受け継がず、父親からは遺伝しない。
また、受精卵が男子に育った場合もミトコンドリアはその次の代に受け継がれない。
私たちの体の細胞の中に入っているミトコンドリアは母親から受け継いだものが入っており、さらに母自身もミトコンドリアを祖母から受け継いでいる。
このように、ミトコンドリアを辿って行くと、女性に行き着くというわけなのだ。
まとめ
- 発生とは、受精から実際に個体が形成されるまでのプロセスをいう
- ゼリー層の中の物質と精子が反応することを先体反応という
- 精子の先体突起で発現するバインディンというタンパク質と、卵の細胞膜の受容体がうまく結合しないと受精ができない
- 精子と卵の融合が本格的に進んで卵の表層粒が崩壊し、受精膜が形成されるプロセスを表層反応という
- 卵には、大量の精子が群がって侵入してくるのを防ぐ仕組みがあり、これを多精拒否という
- 多精拒否は受精波と受精膜の二段構えで行われる