痴呆とは何か? アルツハイマー病ってどんな病気?
年をとると体にシワが増えたり、足腰が言うことをきかなくなったりするのはごく当たり前の老化現象で、当然脳も例外ではない。
では、なぜ年をとると脳の働きが鈍くなったり、病的に脳の機能が低下してしまうのだろうか。
今回は、そんな加齢に伴って発症する難病の一種であるアルツハイマーについて語る。
目的
老化と痴呆
年をとると、程度の差こそあれ誰でも物忘れが多くなったり、記憶力が低下する。
その原因は脳の神経細胞の数が減少するからであり、度が過ぎて日常生活に支障をきたすようになった物忘れなどを痴呆という。
痴呆はその原因によって大きく2種類あり、脳血管性痴呆と、アルツハイマー病による痴呆がある。
脳血管性痴呆とは、文字通り脳の血管に原因がある痴呆である。
この痴呆は、何らかの原因で脳梗塞や脳出血を起こしたとき、それによって脳の神経細胞が死に、脳機能が低下するために起こる。
一方で、アルツハイマー病による痴呆は、アルツハイマー病に起因する痴呆である。
これら2つの痴呆の患者数を見てみると、近年では、脳血管性痴呆になる人は減少傾向にあるが、逆にアルツハイマー病によって痴呆になる人は増加傾向にある。
高齢化が進む社会では、将来これらの痴呆は確実に増加するだろうとされている。
平成28年版厚生労働白書 −人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える−|厚生労働省より引用
アルツハイマー病とは?
アルツハイマー病とは、一言で言えば、脳の神経細胞が大量に死に、脳の機能が低下する病気である。
脳の中でも記憶や思考に関わる海馬や大脳皮質といった部分の神経細胞が特に死んでしまうため、著しい記憶力の低下が見られたり、人格が豹変してしまうといった症状が出る。
また、アルツハイマー病には家族性と孤発性の2つのタイプがある。
家族性アルツハイマー病は若年発症型とも呼ばれ、親や他の家族に病歴があるタイプで、つまりは遺伝性の病気である。
アルツハイマー病は"老人がかかる病気"というイメージが強いが、このタイプは特定の遺伝子が影響しているため、比較的若い年齢でも発症する。
しかし、遺伝性のアルツハイマー病は稀で、患者に占める割合は数%ほどである。
もう1つの孤発性アルツハイマー病とは、家族にアルツハイマー病の人がおらず、加齢とともに発症率が高まるタイプで、高齢発症型と呼ぶ。
我々がイメージするであろうアルツハイマー病はこのタイプである。
患者の特徴
アルツハイマー病の患者の脳を見てみると、老人斑と神経原繊維変化という2つの大きな特徴が見られる。
老人斑と神経原繊維変化は、通常の老人の脳にも見られるものであるが、アルツハイマー病の人は正常な人と比べてこれらの数がかなり多いことが分かっている。
老人斑とは、βアミロイドというタンパク質が神経細胞の周囲に蓄積し、米粒くらいの大きさの斑点となったものである。
また、神経原繊維変化とは、タウと呼ばれるタンパク質を主成分とする繊維が、ねじれた状態で束になって神経細胞内に蓄積することである。
これらが合わさることで神経細胞に異変が起き、細胞の脱落や炎症が起こる。
なぜ起きるのか?
アルツハイマー病がなぜ起こるのかは、実ははっきりとは分かっていない。
しかし現在では、先に述べた遺伝性のアルツハイマーの原因となっている遺伝子が突き止められており、その遺伝子はβアミロイドの蓄積を促進させる作用に関係していることが分かっている。
これによって、アルツハイマー病はβアミロイドが蓄積することによって引き起こされる病気であるというアミロイド仮説が最も有力な学説となっている。
βアミロイド
実はβアミロイドは私たちの脳に普通に見られるもので、特に40歳頃になると増加し始める。
アルツハイマー病患者の脳ではこれが異常に蓄積しており、正常量の1,000~10,000倍になるとアルツハイマー病を発症すると考えられている。
βアミロイドは蓄積して凝集すると、オリゴマーと呼ばれる物質になって、さらにがっちりと固まってしまい、これが老人斑になる。
βアミロイドが蓄積してしまうメカニズムは現段階では不明であるが、アルツハイマー病の患者は、このタンパク質を分解するための酵素の働きが弱くなっているという報告がある。
現在では不治の病
アルツハイマー病は、現段階では進行を止めたり遅らせることはできても、根本的に完治させることができない病気である。
病気の場所が「ヒトの脳」であることが、真相解明をより困難にしているのだ。
ヒトの脳となれば、切り開いて中を覗くわけにもいかない。
つまり、実際にどのようにβアミロイドが蓄積し、どういったタイミングで病気が発症するのかは調べようがないのである。
※2013年に放射線医学総合研究所のチームが特殊な薬剤を使って、先のタウの集積状況を画像化することには成功していますが、実用化にはまだ遠いとのことです。
想定はできても、脳で起こっている変化を実際にその目で確かめるのは難しいんだよ
今後の研究と可能性
アルツハイマー病を研究するということは、"老い"という、いわばヒトの宿命に挑むということでもある。
この難病を治療する糸口はあるのだろうか。
アルツハイマー病の原因とされるβアミロイドは、アミロイド前駆体タンパク質(通称APP)によってできていることが分かっている。
具体的には、このAPPをベータセレクターゼと呼ばれる酵素が分解することによって作られている。
つまり、APPを分解する働きを持つベータセレクターゼの作用を薬などで阻害できれば、アルツハイマー病の予防や治療に繋がる。
近年では、マグロやイワシなどに豊富に含まれるDHAの抗酸化作用が注目されたり、またiPS細胞を使って神経細胞を観察することができるようになったりといった追い風もある。
iPS細胞に関してはまだ課題も多いようだが、研究や実験は着実に進められている。
実際の患者さんにも協力してもらいながら、研究が進められているよ!
↓研究成果は着々と。
まとめ
- 加齢とともに物忘れが多くなったり、記憶力が低下するのは脳の神経細胞の数が減少することが原因である
- 物忘れなどのうち、度が過ぎて日常生活に支障をきたすようになった物忘れなどを痴呆という
- 痴呆はその原因によって大きく2種類あり、脳血管性痴呆と、アルツハイマー病による痴呆がある
- アルツハイマー病の原因ははっきりとは分かっていないが、βアミロイドというタンパク質の蓄積が原因であるという説が有力視されている
- 現在では不治の病であるアルツハイマー病は、様々な研究が着実に行われており、iPS細胞を使った治療法などが注目されている