海水魚(淡水魚)が淡水(海水)で生きられない理由とその体の仕組み
海の魚をいきなり淡水に入れると死んでしまう。
淡水の魚を海水に入れた場合も同じだ。
淡水と海水は同じ「水」ではあるけれど、なぜこのようなことが起こるのだろうか。
答えは簡単で、海水魚と淡水魚ではからだの仕組みがまるで違うからだ。
では、どう違うのだろうか、解説していこう。
目次
- そもそも淡水と海水、どう違う?
- 海水魚に対する素朴な疑問
- キーワードは浸透圧
- 魚は常に危険に晒されている?
- 海水魚と淡水魚の浸透圧を調整する魚の仕組みの違い
- 海水と淡水の両方に適応できる魚がいる?
- 最後に
そもそも淡水と海水、どう違う?
淡水と海水の決定的な違いは塩分濃度だ。
もちろん、淡水には塩分は含まれていないが、海水は3.3~3.5%の塩分が入っている。
そして、塩分にはナトリウム(海が塩辛いのもこのナトリウムのせい)が含まれており、海水を摂取することで生物の体に様々な影響を及ぼす。
※実は「塩分」にもさらに内訳があるのだが、ここでは割愛しておく。
海水に関しては、こちらも読んでみるともう少し詳しくなれるかも。
海水魚に対する素朴な疑問
私たちはマグロやサンマなど、海の魚を食べるときには刺身に醤油をつけたり、塩焼きにしたりする。
海水魚はしょっぱい海水の中に暮らしているにもかかわらずだ。
ずっと海の中にいるのだから、少しくらい塩味がしみててもいいはずである。
海水魚はなぜ塩漬けにならないのだろうか?
キーワードは浸透圧
海水魚(淡水魚)はなぜ淡水(海水)で生きられないかという疑問や、海水魚はなぜ塩漬けにならないのかという疑問を紐解くには、浸透圧という言葉を理解しなければならない。
水の性質の一つに、「濃度が薄いほうから濃度が濃いほうに移動する」というものがある。
これが浸透圧だ。
だから浸透圧とは異なる濃度の水が合わさった時、濃度を均質にしようとして濃度が濃いほうへ水分が移動する力のことだ。
魚はこの浸透圧を調整する機能を持っていて、それぞれの住む環境に適した体の作りになっている。
魚は常に危険に晒されている?
生物の体内(細胞)には水があり、人間にも淡水で生活する魚にも体内にある程度の塩分は保有している。
淡水で生活しているからといって淡水魚の体の中に全く塩分がないというわけではなく、体内の塩分濃度は常に1%程度に保たれている。
ここで海で生活している魚について考えてみる。
海水の塩分濃度は3%であり、海水が体内に侵入した場合、通常であれば濃度の低い細胞の水が流出して脱水して死んでまう。
水の中にいながら脱水するというのは何だか不思議な感覚だが、浸透圧とは厄介な力である。
一方で淡水で生活している魚は逆の危険に晒されている。
淡水には塩分が0であるから、淡水が体内(塩分濃度1%)に侵入した場合、どんどん水が細胞に入ってきて、やがては水で膨らんで破裂してしまう。
水の中で生きるっていうのはかなりのハードモードなんだね。
海水魚と淡水魚の浸透圧を調整する魚の仕組みの違い
海水魚も淡水魚も常に危険に晒されてはいるが、なんとかやっている。
それは、彼らがこの厄介な浸透圧を調整する仕組みを備えているからだ。
海水魚の仕組み
海水魚は常に体内の水が流出してしまうリスクにさらされているので、海水を飲み続けている。
しかし、海水は自分の体内よりも濃度が高いから、取り入れる海水の濃い塩分濃度をどうにしかしつつ、海水を飲まなければならない。
そこで活躍するのが鰓(えら)や腸、腎臓だ。
海水魚はまず鰓から塩分をいくらか排出する。
そして、塩分が排出されて濃度がある程度下がった海水を飲みこむ。
さらに、飲んだ海水から腎臓が塩分をさらにこしとり、尿として体外に排出する。
海水魚の尿には塩分が多く含まれているのはこのためだ。
海水魚は塩分を体外に出すのに必死なんだね。
淡水魚の仕組み
淡水魚は口からは水を飲まない。
体内に水がどんどん流入してしまうので、水をとにかく体外に出さなければならない。
淡水魚の場合、えらから水を取り入れて必要な酸素や塩分などを吸収してからあとは全て尿として排出する。
だから、尿の量も大量になる。
このように、海水魚と淡水魚では浸透圧の調整のしかたが全く違う。
だから海水魚を淡水にいれたり、淡水魚を海水に入れたりしてもすぐに死んでしまうのだ。
海水と淡水の両方に適応できる魚がいる?
浸透圧を調整しながら生きている魚もいるけれど、海水と淡水の両方で生きられる魚もいる。
スズキやウグイ、サケ、マス、ウナギ、アユなどが具体例だ。
彼らは淡水と海水が混ざる汽水(河口など)に棲んでいたり、産卵のために海と川を行き来する生き物たちだ。
こういった生き物たちは広塩性魚と呼ばれており、浸透圧調整を状況に応じて切り替え、環境に適応している。
また、驚くべき浸透圧調整能力を持った魚もいる。
北米にいるカダヤシの仲間で、ウミメダカという名前の魚だ。
この魚は淡水はもちろん、海水の10倍の塩濃度を持つ湖にも棲むことができる。
※ウミメダカは「マミチョグ」という名前でも呼ばれ、劇的な環境の変化にも耐えられる様から奇跡の魚とも言われている。
詳しくは以下の特集記事でご覧あれ。
最後に
今回は淡水魚と海水魚の体の仕組みの違いについて解説した。
海水と淡水が全然違うことは感覚的に分かっていたし、だからそこに棲む魚も体の仕組みが違うんだろうとは思っていた。
でも具体的にどう違うのか、どうやって環境に適応しているかまでは知らなかったので、非常に勉強になった。
本を読んでインプット→記事を書いてアウトプットすると本当に知識がつくね。
自分で書いていて楽しいし、誰か近い趣味の人と共有したりしていけたらなと思う。
では、今日はここまで
[参考文献]
水の科学「魚と水」 水大事典 サントリーのエコ活 サントリー
東京大学海洋研究所/編 『海の生き物100不思議』 東京書籍