DNAの複製はどのようにして行われるか?
DNAの複製とは、簡単に言ってしまえばDNAの数を倍にすることだ。
では、もし複製をしなかったらどうなってしまうのだろうか。
複製は真核生物と原核生物で異なる点があるのだが、今回は真核生物のDNAの複製について学んでいくこととする。
聞きなれないカタカナなどの用語が多く出てきてとっつきにくいかもしれないが、今回はDNAの複製について見ていこう。
↓DNAの複製などについては、以下の記事で簡単に解説してるので、こちらを一度ご覧になってから当記事を見ると理解が深まると思います。
過去記事もう1つ
目次
DNAからDNAへ
DNAの複製は、細胞分裂の前に行われる。
細胞分裂では、元の1つの細胞が2つに分裂するので、あらかじめDNAの数を2倍にしておかないといけないからである。
もしあらかじめDNAの複製を行わなければ、細胞分裂が起こる度に、分裂後の細胞に含まれるDNAの数は1/2、1/4・・・と減少していくことになる。
あと、複製はあくまでDNAを2倍にすることであり、4倍や8倍にならないようにコントロールされている。
DNAが必要以上の数になると細胞ががん化したりしちゃうよ!
DNAは遺伝子を含んでいるので、DNAが減少するということは、遺伝子が欠失するのと同じである。
こうした状態を防ぐためにも、DNAの複製は重要である。
また、DNAの複製ではまれにミスが起こるが、仮に起こったとしてもそれを修復する仕組みが細胞内にあるので基本的に大丈夫だ。
複製の開始
DNAの複製は、まずDNAの二本鎖をほどくことから始まる。
DNAは、ヌクレオチドと呼ばれる小さなユニットがいくつも結合して鎖を作り、さらにその鎖が2本、らせん状に絡み合うように結合するという構造をとっている。
※図では、簡略的に描いているため、らせん状にはなっていません。
この鎖をほどくのはヘリカーゼという酵素である。
ヘリカーゼは二本鎖のつながりをどんどん断ち切っていき、DNAは一本鎖になっていく。
また、DNAの複製が開始する場所も決まっている。
この開始地点をレプリケーターと呼び、上図では省略していたが、実はレプリケーターから両方向に向かってDNAの複製は進んでいく。
※分かりやすくするために、片方の方向のみを今回は考えていきます。
余談であるが、真核生物のレプリケーター(複製開始地点)は必ずしも一ヶ所というわけではなく、複数個所にあることも特徴である。
DNAには方向がある?
DNAには実は方向がある。
以下の図はDNAの基本単位であるヌクレオチドの基礎構造であり、その中の糖(デオキシリボース)は五炭糖と呼ばれる。
五炭糖とは、5つの炭素を持つ糖のことである。
塩基に結合している炭素から数字が割り当てられ(数字のあとにはダッシュがつく)、最終的にリン酸との結合部分の炭素を5'としている。
これにより、DNAには方向性が生まれている。
3'と5'がそれぞれ末端となっており、3'はデオキシリボースが末端となっている方向であり、5'はリン酸が末端となっている方向である。
複製の進行と完了
レプリケーターを開始地点として、ヘリカーゼによって鎖が完全にほどかれると、今度はRNAプライマーと呼ばれるものがやって来て、ほどかれた鎖に結合する。
RNAプライマーとは、DNAの複製のために一時的に作られる小さなRNA断片である。
このRNAプライマーを目印に、さらにDNAポリメラーゼと呼ばれる酵素がやって来て、結合そして複製を開始する。
ちなみに、なぜDNAの複製の話でいきなりRNAが登場するのかというと、DNAポリメラーゼはほどけたDNAだけでは働くことができず、ほどけたDNAの他にDNAやRNAの断片を必要とするからだ。
そこでプライマーというものを作るわけだが、生物はDNAを材料にしたプライマーを体の中で作ることができない。
だから、RNAを材料にしたRNAプライマーを作って反応を起こしているのである。
また、DNAポリメラーゼは決まった方向にしか進めない。
その方向とは、3'方向から5'方向である。
このようにして、DNAポリメラーゼは元のDNAを鋳型として、複製をしていく。
DNAポリメラーゼは、元のDNAの配列を読み取りながら相補的なヌクレオチドを結合させていく(例えば、元の配列が"ATGC"ならば、"TACG"という配列を結合させていく)
そのため、新たに複製されたもう1本のDNA鎖は、しっかり逆向きになっている(5'→3')。
複製が元のDNAの5'方向まで終わると、RNAプライマーは外され、その部分はDNAに置換される。
こうしてDNAの複製が完了する。
リーディング鎖とラギング鎖
これまでの説明では、ヘリカーゼがDNAの二本鎖の結合を断ち切って一本鎖にし、そこからRNAプライマーがそれぞれの鎖に結合して・・・というように、順を追って説明をしてきた。
しかし、これらは途切れ途切れに起こっているのではなく、同時進行的に起こっている。
ところで、DNAの複製にはずっと矛盾があった。
その矛盾とは、DNAポリメラーゼが3'→5'側にしか進めないのに、なぜ逆向きの二本鎖の両方で同時進行的に複製ができるのかということだ。
例えば、下側の鎖を移動するDNAポリメラーゼはすぐに末端に到達してしまう。
これはヘリカーゼとDNAポリメラーゼの進行方向が異なるから起こる現象なんだよ
このようなDNA複製の矛盾(疑問点)を解明したのが、岡崎令治氏を中心とした研究者たちである。
彼らの発見によると、実はDNAの複製は、ほどかれた二本鎖の両方が同じように複製されるわけではなく、一方は片方よりもより複雑なプロセスで複製が行われていることが分かったのだ。。
例えば図でいうと下の鎖は、また新たにRNAプライマーが結合し、別のDNAポリメラーゼがやってきて複製を行うのである。
ほどかれた二本鎖のうち、片方はずっと同じDNAポリメラーゼが複製をするのに対し、もう一方は複数のDNAポリメラーゼによって複製が行われる。
すると、複製されたDNAは、片方は連続的につながっているもの、もう片方は所々がRNAプライマーでつながった不連続なものの2種類ができる。
このように、連続したDNA鎖をリーディング鎖と呼び、一方で不連続な鎖をラギング鎖という。
このDNAの複製の大発見は、本当に偉大なものであった。
現在、ラギング鎖で不連続になって断片化しているDNAは発見者の名にちなんで岡崎フラグメントと呼ばれている。
コラム:DNAと複製のミス
先に、DNAの複製ではまれにミスが生じると述べた。
この「まれ」とはどのくらいの頻度なのだろうか。
実は、DNAの複製ミスが起こる確率は2億5,000万分の1と考えられている。
つまり、ヒトのゲノムは全部で30億の塩基対があるので、1回の複製につき12ヶ所でエラーが起こっている計算だ。
DNAの複製ミスって、聞くだけで何か怖いんだけど・・・12ヶ所って多くない!?
確かに、12ヶ所という数字は一見多いように見える。
しかし、DNAの90%以上はタンパク質を作る遺伝子とは無関係であり、そこでミスが起こってしまっても体に致命的な影響はない。
ただし、残りの5~10%の重要な遺伝子でミスが起こってしまうと、がんや病気になる可能性は十分にある。
まとめ
- 細胞分裂に先立ってDNAの数を倍にすることをDNAの複製という
- DNAの二本鎖は、ヘリカーゼと呼ばれる酵素によって結合が断ち切られ、一本鎖になる
- DNAポリメラーゼは、一本鎖DNAを鋳型に、RNAプライマーをスタートとして複製を行う
- DNAには方向性があり、DNAポリメラーゼは決まった方向にしか進めない
- 一本鎖となった2本のDNAでは、それぞれ異なるプロセスで複製が進むことを岡崎令治氏らが発見した