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DNAの転写はどのように行われるのか? 選択的スプライシングって?

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DNAの転写では、スプライシングという非常に重要な現象が起こるらしい。

以前の記事で、タンパク質が作られる過程をざっくりと学習した。

今回は、その過程をちょっと詳しく見ていくが、中でもDNAの転写についてスポットライトを当てて解説していこうと思う。

 

↓タンパク質が作られる大まかな流れは以下の記事で解説しています。

inarikue.hatenablog.com

 

目次

 

 

DNAの転写

DNAの塩基配列RNAにコピーされること転写という。

生物は体内で様々なタンパク質を合成し、臓器など様々な体の部分を作っている。

 

このタンパク質を作り出すためのプロセスには2つの段階があり、転写はその第1段階である。

転写は、真核生物であれば細胞内の核の中で行われる。

原核生物には核はありませんが、DNAの転写のプロセスは真核生物も原核生物も同じです。

 

DNAと塩基

DNAは核酸と呼ばれる物質の一種であり、その構造はリン酸、さらに塩基という物質が結合してできたヌクレオチドが鎖状に繋がってできている。

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塩基の配列は、いわば暗号のようなものであり、塩基がどのような順番で並んでいるかによって最終的に作られるタンパク質が変わってくる。

 

DNAの複製と転写の違い

塩基配列のコピーと言えば、DNAの複製でも似たようなことをしてたよね!転写と複製はってどう違うの?

 

まず、DNAの複製は、その生物の塩基配列を全てコピーして同じものをもう1セット作ることである。

例えば、人間の塩基配列は全部で30億あるから、DNAの複製では30億全ての塩基配列がコピーされる。

 

それに対し、転写では必要な部分だけをコピーする。

作りたいタンパク質の遺伝子がある部分だけをRNAに書き写してしているのだ。

例えば、目や耳、神経などの細胞で消化酵素を作る意味はなく、特定のタンパク質を作るために30億全ての塩基配列を全てコピーする必要はないからである。

 

↓DNAの複製については以下の2つの記事にて解説しています。

inarikue.hatenablog.com

 

inarikue.hatenablog.com

 

転写のプロセス

転写が行われる前に、まずらせん状に結合したDNAの二本鎖をほどく必要がある。

この結合をほどくのはヘリカーゼという物質で、ヘリカーゼはDNAが複製される際にも二本鎖をほどく役割を担っている。

 

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しかし、ほどかれたDNAの二本の鎖のうち一本のみが転写に使われ、もう一方は使われない

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では、何をもって転写に使われる鎖が決定するのかというと、転写に使われる鎖にはプロモーターという特別な塩基配列が存在する。

プロモーターを持ち、転写に使われるDNA鎖をアンチセンス鎖と呼び、そうでない鎖はセンス鎖と呼ばれる。

 

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プロモーターを持つ鎖には、RNAポリメラーゼという物質がやって来て転写を始める。

RNAポリメラーゼはDNAを鋳型にしてRNAを作り出す酵素であり、DNA上を3'→5'側に移動しながらRNAを合成する。

 

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RNAにはいくつかの種類があり、このとき作られるのは、DNAの転写に関与するmRNAというRNAである。

ちなみに、RNAは5'→3'方向に作られ、複製と同じようにポリメラーゼの進行方向とは逆になっているので注意。

 

↓DNAの複製について先に学んでおくと、3'やら5'やらポリメラーゼという用語が分かりやすいと思います。

inarikue.hatenablog.com

 

スプライシング

mRNAは転写が行われたら完成というわけではない。

mRNAは合成されたあとに、一部の不要な領域が除去されてさらに整えられるのである。

 

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このようなmRNAの一部分が除去されるプロセスをスプライシングという。

スプライシング真核生物にのみ見られる現象である。

 

合成されたばかりのmRNAはいわゆる"未完成"であり、特に前駆mRNAと呼ばれる。

では、このmRNAの一体どこの部分が除去されるのか。

実は、必ず除去される部分とそうでない部分が存在する。

 

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前駆mRNAをよく見てみると、イントロンという部分とエキソンという部分が交互に存在している。

イントロンという部分の配列は、スプライシングにおいて必ず除去される。

つまり、イントロンは転写の次のステップである翻訳がされることはないし、核の外に出ることもない

 

除去されずに、後に翻訳されるのはエキソンという部分である。

しかし、ここで重要なのが、エキソンは全てが必ずしも翻訳されるわけではないということである。

 ※分かりやすいよう、イントロン除去後のエキソンに番号を振りました。

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上図のように、例えば①と②と③を使ってmRNAを作ることもあれば、②と③と④のエキソンを使ってmRNAを作ることもあるのだ。

こうしてエキソンは、場合によっては除去されずに全てが翻訳されたり、あるいは一部がイントロンと共に除去されてしまったりする。

 

スプライシングか完了するとmRNAはいよいよ完成なのだが、このスプライシングによって、1つの前駆mRNAから複数種のmRNAが生まれる可能性が出てくる。

このように特定のエキソンを除去し、多様なmRNAを生み出すことをスプライシングの中でも特に、選択的スプライシングと呼ぶ。

 

スプライシングを経て完成したmRNAは、核に空いた核膜孔という隙間から核外へと出ていく。

そして核外にて翻訳というものが行われ、タンパク質が作られていく。

 

冒頭で、スプライシングは真核生物にのみ見られる現象だと述べた。

真核生物は1つの前駆mRNAという遺伝子領域から多様なmRNAを作り出せるため、多種のタンパク質を生み出すことができ、おかげで複雑な体を作ることができる

我々人間のような複雑な真核生物が誕生したのも、このスプライシングが進化の原動力となった結果なのである。

 

まとめ

 

  • DNAは二本鎖であるが、そのうち一本のみが転写に使われる

 

  • 転写に使われないDNA鎖をセンス鎖、使われるDNA鎖をアンチセンス鎖と呼ぶ

 

  • アンチセンス鎖はプロモーターと呼ばれる特別な塩基配列を持つ

 

  • RNAポリメラーゼは、プロモーターを持つDNA鎖のみを認識して転写を行い、mRNAを合成する

 

  • RNAポリメラーゼによってできたばかりのmRNAは前駆mRNAと呼ばれる

 

  • 前駆mRNAはスプライシングというプロセスによって、不要な部分が除去される

 

 

 

  • 選択的スプライシングによって、1つの前駆mRNAから様々なmRNAが生まれる可能性が高まり、それが生物の複雑化や多様化に重要な役割を果たしている