酵素、補酵素とは何か? どのような性質があるのか?
生物の体内では何種類もの酵素が働き、その生命活動に多大な貢献をしている。
酵素は英語でエンザイムと呼ばれ、誰もが一度は聞いたことがあると思う。
では酵素は生物の体内でどのような働きをしているのだろうか。
今回は、酵素について学習していこう。
目次
酵素とは何か
酵素はタンパク質でできた物質で、生物の体内にて代謝を促進する働きを担っている。
代謝は生物の体内にて起こる化学反応全般であり、酵素がないとうまく反応が起こってくれず、代謝がおこなわれないことにも繋がる。
↓代謝については別記事で簡単に解説しています。
触媒作用
酵素の働きは、「化学反応を助ける」だとか、「促進する」だとか、「触媒として働く」などと表現される。
では、具体的にどう働くのだろうか。
全ての化学反応に言えることだが、化学反応が進むためにはエネルギーが必要で、一定以上のエネルギーを持った物質同士がぶつかり合うことが条件のひとつになっている。
つまり、化学反応が起こる条件には最低限必要なエネルギーのラインがあり、触媒はこの最低ラインを引き下げる性質がある。
だから、触媒があると反応がより起こりやすくなるのである。
例えば、エネルギーが最低でも100必要なのを50にまで引き下げてくれるようなイメージだね!
酵素は、「生物の体内ではたらく触媒」ということで、生体触媒とも呼ばれる。
生物の体内で起こる化学反応は、酵素が触媒になることで非常に効率的に進むのである。
基質
酵素は基質と呼ばれるものに結合することで反応・作用する。
基質とは、酵素が作用する物質の総称である。
ちょっと分かりにくいので例を挙げてみよう。
例えば、ヒトの唾液に含まれるアミラーゼは酵素の一種であり、デンプン(糖)を分解するために必要なものだ。
このとき、アミラーゼの作用対象となるデンプンを基質と呼ぶ。
このように、ある酵素の反応・作用対象になるものが基質である。
そして酵素は基質と結合し、生成物を作る。
この反応を酵素反応と呼び、さらに単位時間あたりの生成物を作る量を酵素反応速度という。
酵素がよく働くということは、生成物をどんどん作っていくということである。
酵素の特性
酵素にはいくつかの特性がある。
ここでは、酵素の弱点も含めて紹介していこう。
特異性を持つ
ある酵素は、決まった基質にしか働かない。
これを難しく言うと「特異性をもつ」とか、「基質特異性」などと言ったりする。
例えば、先ほど述べたアミラーゼはデンプンを分解できるが、それしかできない。
タンパク質を分解したり、脂肪を分解したりということはできないのだ。
酵素は種類によって役割に特化しているんだね!
酵素と基質の関係は、よく鍵と鍵穴に例えられる。
酵素と気質にはそれぞれ結合するための部位があり、その部位の形が噛み合わなければ結合ができないのだ。
反応の前後で変化しない
酵素は代謝が起こる際の、いわば触媒として使われるわけだが、反応の前後で酵素自身の性質は変化しない。
これがどういうメリットになるのかというと、酵素は代謝に使われて役割を終えても変質しないので、使い回しができる。
使った後にいちいち新しいものを作らなくて済むのである。
生物によって適性温度がある
例えば、ヒトの体内にある酵素は37℃くらいの温度で最もよく働く。
酵素には適性温度があり、その酵素を持つ生物の平均体温くらいで最もよく働くようになっているのだ。
逆に言えば、適性温度を上回ったり、下回ったりすると途端に酵素はうまく働かなくなる。
酵素は特に熱には弱く、人間の場合熱などで体温が41℃を上回ってくると、体内の酵素の一部が壊れ始める。
インフルエンザなどで高熱にうなされた経験がある人は多いだろうけど、40℃を超える高熱は実は結構危険なんだよ!
ちなみに酵素が熱に弱い理由は、タンパク質でできているからである。
酵素の元になっているタンパク質がそもそも熱に弱いのだ。
酵素ごとに適切なpHがある
酵素が働くためには温度だけではなく、pHにも最適な値があることも忘れてはならない。
例えば、以下は消化液に含まれる消化酵素と、その最適Phをまとめた図である。
pH・・・7を中性として、それより低ければ酸性、高ければアルカリ性
阻害剤
しかし、この反応を阻害するはたらきのある物質が存在し、それらを阻害剤と呼ぶ。
競争的阻害剤
競争的阻害剤は、基質よりも先に酵素に結合し、本来結合するはずだった基質と酵素とを結合させなくすることで反応を阻害する。
酵素をめぐって基質と阻害剤とで競争が起こるからこう呼ばれているんだね!
ただしこのタイプの阻害剤は、基質の量が増えると効果が弱くなる。
基質が増えてしまうと、量の問題でその分基質に酵素をとられてしまう可能性が高くなるからである。
非競争的阻害剤
非競争的阻害剤は、酵素が基質と結合する部分の形を変形させることで阻害する。
先に、酵素と基質の関係は鍵と鍵穴に例えられると述べたが、非競争的阻害剤はまさに酵素という鍵の形を変えてしまうのである。
非競争的阻害剤は、そもそもの酵素の結合部位を変えてしまうものであるため、競争的阻害剤と違って基質の量が増えても効果の減少が見られないというのが大きな特徴である。
したがって、基質の量を増減させることで、ある物質が競争的阻害剤か、非競争的阻害剤か、どちらのタイプの阻害剤かを見分けることが可能である。
補酵素
酵素は基本的に基質とそのまま結合するのだが、中にはそのままでは基質と直接結合できず、補酵素(英語ではコエンザイムという)というものを必要とするものがある。
例えるならば、補酵素は異なる種類のケーブルを繋ぐための変換器みたいなものだ。
補酵素にもいくつかの特徴がある。
まず、酵素はタンパク質からできているのに対し、補酵素はタンパク質以外のものからできている。
これが何を意味するのかというと、補酵素はタンパク質でできているわけではないので熱に強いのだ。
補酵素は主にビタミンなどから作られているよ!
また、補酵素には低分子性という特徴もある。
低分子性とは、簡単に言ってしまえば大きさが非常に小さいということ。
実は酵素は高分子である(大きさがでかい)ため、酵素自身を作るのには時間がかかる。
しかし、補酵素は小さいので早く作ることができるのだ。
あとその他の特徴として、補酵素は酵素との結合が容易であり、くっついたり離れたりすることが簡単にできるという特徴もある。
※ビタミンについて
上記で補酵素は熱に強いと書きましたが、補酵素の元となる全てのビタミンが熱に強いわけではありません。
ビタミンは熱に強いものと弱いものがあるのでご注意を!
酵素量の調整とフィードバック
酵素と基質によってできる生成物は、多すぎても少なすぎてもダメである。
しかし、生物の体はうまくできているようで、酵素の量などを調整することによって生成物の量をコントロールしている。
上図は、物質Aが酵素Iの助けを借りて物質Bを作り、さらに物質Bは別の酵素IIを借りて最終的な生成物Xを作る簡易的な図である。
ここで注目すべきなのが、最終的に作られた生成物Xが酵素Iに対し、阻害剤として働いていることだ。
これにより、酵素Iの量が抑制され、その後の反応が起こりにくくなり、物質BやCの量を減らすことができる。
このように、生成物が酵素に阻害的に作用し、生成物の産生を一定に保とうとする働きをフィードバック調整という。
フィードバック調整は酵素に限った話ではなく、ホルモン生成の場合など、体内の細胞でさかんに起こっている。
↓ホルモンについては以下の記事をどうぞ
まとめ
- 酵素は反応の前後で変質しない
- 酵素がうまく働くためには最適な温度とpHが必要である
- 阻害剤は、酵素の働きを阻害する物質である