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真核生物の遺伝子発現はどのように決まるのか? 遺伝子発現調節とは?

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私たちの体にある無数の細胞は全て同じ遺伝子を持っている。

しかし、実際に働く遺伝子はほんの一部であり、細胞ごとに特定の遺伝子だけが働いているようだ。

今回は、真核生物の代表例である「ヒト」を例にとりながら、真核生物の遺伝子発現とその調節について解説していく。

 

目次

 

DNAの密度

DNAはヒモのような形をしているが、核の中でそのままの形で存在しているわけではない

核内にてDNAは、ヒストンというタンパク質と結合し、ヌクレオソームという形になって存在している。

 

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このように真核生物の核の中にはDNAが折りたたまれて収納されており、核にはDNAがぎっしり詰まっている。

しかし、電子顕微鏡で核をよく見てみると、DNAは一様に分布しているわけではなく、場所によって密度差がある

 

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電子顕微鏡では観察物は白黒にしか見えません。そのため、DNAの密度が高い部分はより黒く見え、そうでないところは薄い黒色に見えます。

 

では、今度は密度が高い部分と低い部分をそれぞれ拡大して見てみよう。

 

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密度が高くなっている部分では、複数のヌクレオソームが凝集しており、密度が低い部分では、部分的にDNAがほどけ、まるで数珠のようにヌクレオソームが繋がっている

これらの違いは一体何に関わってくるのだろうか。

 

遺伝子の発現

実は両者の違いは、RNAポリメラーゼという物質の結合に関わってくる。

RNAポリメラーゼとは、タンパク質を作るための転写に必要なmRNAという物質を作る酵素である。

そして、RNAポリメラーゼはヌクレオソームが凝集しているとDNAに結合することができない

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RNAポリメラーゼが結合できないということは、その領域にある遺伝子からタンパク質を作ることができないことを意味する。

言い換えると、ヌクレオソームが凝集している部分のDNAの遺伝子は発現しない(働かない)のだ。

 

1つの生物の体に様々な細胞がある理由

ヌクレオソームが凝集している領域の遺伝子は発現しない。

そして、どの部分のヌクレオソームが凝集し、あるいはほどけているかは、実は細胞ごとに異なっている

これは生物の細胞に様々なバリエーションや特徴があることの理由になっている。

 

私たち「ヒト」の体は無数の細胞が集まってできており、その数は37兆個と言われている。

そして37兆個の細胞1個1個が持つ遺伝情報はすべて同じである。

しかし、持っている情報は同じなのに、細胞によって形も性質もまるで違う。

 

神経の細胞は変な形をしているし、筋肉の細胞は核が複数あったりするよ!

 

その理由は、ヌクレオソーム(DNA)の在り方が細胞ごとに異なるためだったのだ。

ヌクレオソームが凝集していればRNAポリメラーゼが結合できないので、その領域にある遺伝子は働くことができないし、逆にほどけていればその部分の遺伝子は働くことができる。

 

ヌクレオソーム在り方、そしてそれによるRNAポリメラーゼが結合できる領域の違いが、細胞に様々な特徴や性質をもたらすのである。

 

↓ヒストンとかヌクレオソームって何ぞや!という方は、以下の記事を参考にしてみてください。

inarikue.hatenablog.com

 

inarikue.hatenablog.com

 

遺伝子発現調節

最初は無個性だった細胞は、発現する遺伝子が決まると分化を始め、各々の特徴や性質を備えていく。

ここまでの内容は、遺伝子を発現させるかどうか、いわゆる遺伝子をどのようにオン・オフにするかというものだった。

 

しかし話はそれだけでは終わらない。

理由は、細胞は周囲の状況に応じ、遺伝子が発現する量を自身で調節しているからだ。

遺伝子をオンにしたら終わりではなく、オンにしたあとの調節も細胞はしっかりやっているのだ。

このように、細胞が遺伝子の発現量を調節することを遺伝子発現調節という。

 

ではここからは遺伝子発現調節について詳しく見ていこう。

 

基本転写因子

下図は、ほどかれたDNAの部分を拡大したものである。

 

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図を見てみるとプロモーターの上に基本転写因子という何やら難しそうなものが乗っている。

基本転写因子とは、タンパク質の一種でRNAポリメラーゼがプロモーターに結合するために必要な足場のような役割を担う。

 

RNAポリメラーゼが転写を行うためには、まずDNA上にあるプロモーターに結合する必要がある。

しかし、プロモーターだけがあれば良いというわけではなく、そこに基本転写因子がないとRNAポリメラーゼはそのプロモーターに結合できないのだ。

 

まずは基本転写因子があることが大前提なんだね!

 

↓プロモーターなどの用語が分からない方は以下の記事も参照してみてください。

inarikue.hatenablog.com

 

転写調節因子

真核生物の場合、目的の遺伝子がある場所(転写領域)だけではなく、調節遺伝子がある部分でも転写と翻訳が行われ、そこで転写調節因子というタンパク質が作られる。

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転写調節因子とは、調節領域に結合してRNAポリメラーゼをコントロールするタンパク質で、いくつかの種類がある。

例えばエンハンサーサイレンサーという転写調節因子がある。

 

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エンハンサーは、RNAポリメラーゼによる転写を促進させる働きをし、逆にサイレンサーは、RNAポリメラーゼによる転写を抑制する。

このように、細胞はエンハンサーやサイレンサーを使い、本命の転写や翻訳をやりすぎてタンパク質を作り過ぎたりしなようにしているのだ。

 

細胞はタンパク質を使って、タンパク質を作るための転写や翻訳をコントロールしているんだね!ややこしいけど・・・

 

 まとめ

  • 核内にてDNAは、場所によって密度が異なって分布している

 

  • 密度の高い部分ではヌクレオソームが凝集し、低い部分では一部のDNAがほどけている

 

  • 転写や翻訳はDNAがほどけた部分で行われるため、ヌクレオソームが凝集する部分の遺伝子は使われない

 

  • 細胞ごとに働きや形が異なるのは、細胞ごとにヌクレオソームの在り方が異なるためである

 

  • 細胞が遺伝子の発現量を調節することを遺伝子発現調節という

 

  • RNAポリメラーゼはプロモーターに基本転写因子が結合していないと働けない